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補助金制度の返還事例はある?返さなければいけない場合について解説!
補助金とは?
補助金とは、所定の要件を満たした場合に、管轄の省庁や地方自治体、団体等(以下、「支給者」という)に申請を提出し、審査を通じてそれが認められれば受給できる金銭のことです。これは支給者の善意でおこなっているわけではなく、支給者が推進する政策等の実現のために支給されるものです。たとえば、生産性を高める設備や環境に優しい設備の導入、特定の産業の活性化、テレワークを推進する企業の支援、中小企業の経営基盤の強化など、目的は様々です。
設備投資をしたり、特定の産業を発展させて国全体の事業の多様化をしたり、中小企業を支援して雇用や技術を守ったりすることは、社会全体的な視点からは実現することが望ましいものの、市場の原理に任せると、資金繰りの厳しさや費用対効果の問題、情報の欠如などによって最適な行動や結果にならない可能性があります。こうした場合に、補助金によって市場に介入し、支給者が考える最適な行動を事業者に促すことができます。
助成金は、財源が限られており予算が決まっているケースが多く、申請可能期間内でも申請受付を停止することがあるため、申請を希望する場合は早めの対応が必要です。
また、補助金を受給しようとした際には、所定の要件を確認し、審査書類等を準備して申請し、支給者の審査を受けて、事業計画の認定や受給が決定されることになります。このとき、補助金の対象となる設備投資や費用発生が申請後や計画の認定後に発生したものに限られていたり、申請までに支払いを済ませる必要があったりするため、費用の発生や支払い時期にも注意が必要です。補助金に該当する費用だと認識して発注や契約をすすめていたところ、補助金の要件が「計画の認定後に発注したものに限る」となっていて、補助金の対象とならないケースが想定されます。
原則、補助金は一度受給できれば返還する必要はありません。ただし、場合によって受給後にも資料の提出や事業に関する進捗報告を求められることがあります。支給者による実地調査の依頼が発生することもあります。そうした求めに対応しなかったり、受給時の定めを守らなかったりした場合は、補助金の一部または全部を返還する必要が発生する可能性があります。
助成金とは?
補助金と似たものとして、助成金があります。補助金と助成金の違いをみていきましょう。
補助金は法律に基づいて支給されるものです。国が支給する補助金は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」を根拠としています。補助金の財源が税金であることに留意し、受給者は誠実に目的の事業をおこなうよう努めなければなりません。また、地方自治体が支給する補助金は、「地方自治法」を根拠としています。地方自治体の補助金も財源は税金です。いずれにしても、納税者への説明責任が果たせるよう、厳格な審査に基づく補助金の支給や、使用目的のモニタリング等が必要となります。
一方、助成金については、一部の助成金は補助金と同じ法を根拠にしているものもありますが、助成金全般として補助金のような根拠法はありません。助成金とは何かを直接定義するものはないですが、主に関係する個々の法令に基づいて支給されるものです。たとえば雇用を守った企業に対して支給される雇用調整助成金は、雇用保険法を根拠法令としています。
助成金と補助金の違いとは?
つまり、補助金と助成金は根拠法令が異なるのです。助成金が「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」の範囲に定義された補助金でない場合は、扱いが異なることはあります。しかし大きな内容としてはいずれも補助金の概要と同じと考えてよいでしょう。
すなわち、支給者の実施目的に合わせた要件があり、それを満たすことを申請し、認められれば受給でき、通常は返還義務がないものです。それぞれの財源は税金や、雇用保険等となります。
助成金と補助金に対する税金の扱い
なお、いずれも所得税法や法人税法においては、購入した資産の取得価額を補助金の分だけ減らすか、税金計算上の利益(益金という)として課税されることになります。課税されるタイミングは補助金や助成金によって異なります。原則は受給する権利が確定した年度の収益とし、入金時ではありません。受給が決まった年度の所得として課税されることになります。雇用調整助成金など一部の助成金は、「交付を受けるべき金額が具体的に確定していない場合であっても、その金額を見積り、当該事業年度の益金の額に算入する」ことになります。
国税庁ホームページ 法人税法基本通達2-1-42
www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_01_06.htm
補助金・助成金に返還義務がある場合は?
補助金の返還義務が発生する場合は、補助金ごとに定められていますが、「国から国以外への団体」へ支給する補助金全般の定めとしては、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」に以下の記載があります。
- 補助金を別の用途で使用するなど受給時の条件に違反してはならない(第17条)
- 補助金により取得した財産を、承認を受けずに譲渡・交換・貸付・担保に供することをしてはならない(第22条)
補助金申請時の提出書類に記載した用途どおりに使用しないということは、支給者が補助金支給の目的を達成できないということになります。事後報告や調査等において当初の用途外で使用していることが分かった場合は、補助金の返還を命じられることになります。また、生産性を向上させるための設備投資として補助金を受給したのち、当該設備を売却・交換・貸し付けることがあれば、これもまた補助金の目的を達成できないことになります。こうしたことが発生して補助金の目的が達成できないことへの牽制及び防止のためと考えられます。
補助金を支給する前には、支給者による審査を受けることになります。審査は提出した根拠資料等に基づき実施されることになるため、それらに虚偽があった場合は、補助金決定が取り消されることになるでしょう。審査後に要件を満たさない結果となった場合なども、補助金を返還することになります。さらに同法には以下の記載があり、ペナルティとして加算金を納付する必要があります。
- 補助金を返還する場合は、補助金に対して年10.95%の加算金を納付する必要がある(第19条)
返還義務が発生する場合の具体例
各補助金の募集要項等を確認すると、上記の法律に定められたルールのほか、返還事由が記載されていることがあります。たとえば以下です。
IT導入補助金
ITツール導入費の一部を補助することで、会社の業務効率化や売上増加を支援するための補助金です。導入したクラウド型ITツールを一年未満で解約した場合は、返還しなければならないとされています。また、給与支給額や最低賃金が目標未達の場合、返還を求められることがあります。
事業承継補助金
事業承継、事業再編・事業統合をきっかけとした中小企業者等による経営革新や事業転換への挑戦を応援するための補助金です。反社会的勢力と関係をもった場合、返還を求められます。
不正受給をした場合の措置と事例
補助金の不正受給が発覚した場合には、ペナルティが定められています。
・補助金の返還
・補助金返還にかかる加算金
・懲役
・罰金
・社名の公表
・刑事告訴
・他の補助金受給の停止
補助金の返還や加算金のほか、担当省庁のホームページに不正受給の概要や社名が公開されます。また、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」によると、最大で5年以下の懲役か100万円以下の罰金、又はその両方が科されることがあります。さらに、支給者を騙す意図で不正受給をした場合は、刑事告訴される可能性もあります。内容の重要性によっては新聞等でも取り上げられるなど、社会的な信用が低下することも十分に考えられます。当面の間補助金等の支給停止という措置もあり、種々の悪影響は免れません。
具体的な補助金・助成金の不正受給の事例
以下に、補助金の不正受給をした具体事例を3社を取り上げます。事例として経緯や影響を確認しておきましょう。
1.中小企業経営革新支援対策費補助金の交付を受けた部品製造業A社
A社は、2000年度に約1,020万円の補助金を受給しました。2005年9月に富山県が内部告発を受けて調査を実施し、その結果、警察に告発をした事例です。関係者が逮捕された上、会社が受給した補助金は全額返還されることとなりました。以後の補助金の交付も30ヵ月停止されました。
2.中小企業経営革新支援対策費補助金の交付を受けた小売業B社
B社は、2001年に約1,000万円の補助金を受給しました。2007年にB社の専務が補助金適正化法違反で逮捕されたため、B社の社長等に対して現地調査を実施したところ、不正受給が発覚しました。補助金を取り消し、返還請求を行い、以後の補助金の交付も30ヵ月停止されました。
3.中小企業経営革新支援対策費補助金の交付を受けたC社
C社は、2003年に約628万円の補助金を受給しました。補助金を不正に受給している疑いがあり、中部経済産業局が立入検査等を行ったところ、報告書等を捏造し、不正受給していたことが発覚しました。結果、補助金を取り消し、返還請求を行い、以後の補助金の交付も30ヵ月停止されました。また、中部経済産業局が補助金適化法違反容疑で刑事告訴を行うこととしました。
このように、補助金の不正受給が発覚して補助金が返還された上、関連者が刑事罰を受ける結果になっている事例もあります。発覚の経緯としては、社内の人間が告発することもあれば、支給者が調査を実施することもあります。言うまでもありませんが、補助金の目的に沿った適切な事業活動のために活用しなければなりません。
補助金・助成金の返還義務は知っておこう
補助金について、目的や根拠法、返還になる場合やその事例をみてきました。ルールに則り受給していれば返還する必要はないため、自社の経営へ有効活用すべきです。既存の補助金の期間延長や要件緩和、新しい補助金など、様々な情報が公表されていくため、情報収集の仕組みがあるとよいでしょう。