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補助金・助成金

助成金の消費税分は返還が必要?仕入控除税額や補助金との違いも解説

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助成金の消費税分は返還が必要?仕入控除税額や補助金との違いも解説
助成金は、国や自治体から事業者へ提供される支援金であり、企業活動には有用なものです。しかし、助成金として支給された金銭に対して、消費税分の返還義務が発生する場合もあります。今回は、助成金の仕組みや消費税分の返還が必要となる要件、還付額の計算方法などについてわかりやすく解説します。

助成金とは?

助成金とは、国や地方公共団体などが、会社や個人事業主が一定の取り組みに使用した経費などを補てんするために、支給する金銭のことです。助成金は、融資と違って返還する必要はありません。

助成金の対象となる経費は、助成金の種類によって異なります。雇用を促進するための助成金であれば、人件費が主たる経費であり、新しい製品の開発を応援するものであれば、設備の導入費や外部への委託費など幅広い経費が対象になります。

これら助成金の支払い対象となった経費は、法人税の計算上は損金に算入されます。

助成金の仕組みと目的

助成金の目的は、社会の発展や経済成長につながる活動、公益に役立つ活動の支援・促進です。事業活動においては、雇用の安定、職場環境の改善など、主に雇用や労働条件に関する課題解決の支援・促進を目的に設けられています。

助成金は、企業が一定の取り組みのために支出した経費の一部を、後払いで支給する仕組みです。助成金を受け取るためには申請が必要となりますが、申請から支給までのスケジュールや必要書類などは、助成金ごとによく確認する必要があります。

助成金の受給申請を行う前に、特に注意して確認しておくべきポイントは、「いつ」の取り組みが助成金の対象になるかです。

例えば、厚労省の「雇用調整助成金」では、経営悪化などによって従業員の休業といった雇用調整を行った際に、助成金を受け取ることができます。この助成金は、原則、従業員が休業を始める前に休業計画届などの書類を提出し、雇用調整を実施した後に支給の申請を行います。

これに対し、東京都の「創業助成金」では、まず助成金の受給申請を行い、交付決定後の助成対象期間中に支出した経費が助成金の対象となります。申請より前に行った取り組みについては、助成金の支給対象にはなりません。

助成金の種類

次に、主な助成金制度をピックアップして、その概要をご紹介します。助成金を設けているのは主に厚生労働省となり、制度に関する詳細は厚生労働省や都道府県労働局のウェブサイトなどに掲載されています。利用したい助成金があれば、まずは資料を確認して、申請・支給要件や全体スケジュールを把握しましょう。

助成金の募集は随時行われていますが、制度が変更されたり終了したりするケースもあるため、こまめに確認するのがおすすめです。

※ご紹介する助成金は、2024年時点で実施されているものです。

●雇用調整助成金
従業員の雇用維持のために要した費用を助成する制度です。景気の変動や経済上の理由により、事業活動を縮小しなければならなくなった事業主が、休業や教育訓練、出向といった一時的な雇用調整を行った際に助成されます。

在職者のリスキリング強化の観点から、休業よりも教育訓練による雇用調整を選択しやすくなるよう助成率や教育訓練加算額などが設定されています。

●キャリアアップ助成金
有期雇用労働者や派遣労働者、短時間労働者といった非正規雇用労働者の正社員化、処遇改善の取り組みなどを実施した事業主に支給される助成金です。正社員化コース、賃金規定等改定コースなど複数のコースが設定されています。各コースの実施前に「キャリアアップ計画」を提出し、取り組み後に賃金の支払いを行った後、支給申請します。

●トライアル雇用助成金
就職が困難な求職者を、一定期間試行雇用する事業主に対して支給される助成金です。トライアル雇用開始前に実施計画書を作成・提出し、トライアル雇用終了後に申請する必要があります。

ハローワークなどの紹介による雇用であること、原則3ヵ月のトライアル雇用を行うこと、といった雇い入れの条件があります。本助成金の目的は、雇用機会の創出と求職者の早期就職を図ることです。

●地域雇用開発助成金
求職者数に対し雇用機会が少ない地域、若年層や壮年層の流出が多い地域など、雇用情勢の厳しい地域で事業を行う事業主に支給される助成金です。事業所の設置や整備を行った際に、その地域に居住する求職者を雇用した場合、かかった費用や増加した人数に応じた金額が支給されます。設置・整備が完了した日から最大で3回受給できます。

助成金と補助金の違い

助成金と補助金の違い

助成金と似た言葉に「補助金」があります。「事業再構築補助金」や「IT導入補助金」、「小規模事業者持続化補助金」などがその例として挙げられます。

補助金とは、国や地方公共団体が、国や地域の発展や公益につながると認められる事業や活動を支援することを目的に支給する資金です。助成金との同質性は極めて高く、返済の必要もありません。また、補助金の対象となる事業に取り組んだあとに「後払い」で支給されるという仕組みも助成金と同様です。

補助金の受給までには、一定の時間を要します。まず補助事業の計画書を提出し、審査に通らなければなりません。通過後は計画した事業を実施し、実績報告と検査を経て、補助額の確定と補助金の支払いを受けることができる、というのが一般的な受給の流れです。

補助金を申請する際には、決して少なくない量の書類作成と自己資金による事業の実施が必要であることを念頭に入れておきましょう。公募開始時期や必要書類をあらかじめ確認するとともに、申請業務にかかる時間や資金繰りなどを考慮しておくのがおすすめです。

このように助成金と補助金は非常に似た性質を持ちますが、その一方で、異なる点もあります。次より2つの違いについて解説します。

※文中に記載の補助金は、2024年時点で実施されているものです。

支援分野

交付する支援金に対し、厚生労働省は「助成金」という言葉を、経済産業省は「補助金」という言葉を用います。そのため、助成金は主に厚生労働省が管轄する分野を、補助金は主に経済産業省が管轄する分野を支援する資金であるという違いがあります。

厚生労働省が管轄するのは、職業の確保、労働条件・労働環境の整備、社会福祉、国民生活の保障といった分野です。一方、経済産業省が管轄するのは日本の経済・産業に関する分野で、景気対策や中小企業の活性化などを担います。

受給金額

一般的に助成金は補助金に比べると少額傾向にあるようです。ただし、助成金、補助金ともにさまざまな種類があり、受給金額もともに数万〜数百万と幅広いため、一概にどちらが多い、少ないとは言えません。またどちらの制度においても、研究・開発に関する支援金である場合や事業規模が大きい場合には、数千万円〜1億円を超えるケースもあります。

募集時期

募集要領が公開される時期は、一般的に助成金、補助金ともに2月〜5月頃が多いようです。6月〜9月頃に追加の募集が行われる場合もあります。

募集期間については、助成金と補助金では違いがあります。助成金は一年を通して行われているものなどもあり、比較的長い期間が設けられています。それに対し、補助金は募集期間が短い傾向にあり、数週間で締め切られるケースも多く見られます。これは経済環境の変化や産業技術の革新に対し、企業が迅速に対応できるよう迅速な支給を行うためです。

受給のしやすさ

助成金と補助金の一番の違いは、受給のしやすさにあると言えます。助成金は受給しやすく、補助金は受給しにくい支援金です。

助成金は要件を満たしていれば、ほぼ受給できます。募集期間の長い制度が多く申請しやすい点も、受給のしやすさに一役を買っているでしょう。

補助金は、良い事業提案にのみ支給される資金です。要件を満たしているかどうかだけでなく、事業計画の内容も詳細に審査されます。また、限られた予算の中で定員が設けられており、採択されない場合も多くあります。

助成金の会計処理の進め方

助成金の会計処理を進める場合は、助成金の対象経費を支出した時の処理と、助成金を受け取った時の処理に分けて考える必要があります。

助成金の対象経費の会計処理

助成金の対象となる経費は、その助成事業のために使用された経費しか認められません。

例えば、助成金の対象経費の中に「出張旅費」があったとしても、助成事業のものとは無関係な出張であれば、経費として処理できないということです。そのため助成金の会計処理は、助成事業以外の経費と区別して行う必要があります。

また、助成事業と別の事業の二つを目的とした出張であれば、助成金の対象になる部分を合理的な方法で按分して計上しなければなりません。

助成金を受け取った時の仕訳で使う勘定科目

助成金を受け取った時の会計処理は、収入として計上する必要があります。損益計算書上の表示が「営業外収益」であるとすれば、使用する勘定科目は「雑収入」が良いでしょう。

助成金の受け取りは頻繁にあるものではないため、独自の勘定科目を設定しても問題ありません。なお、助成金を固定資産の購入に充当する場合は、圧縮記帳を行うこともできます。

助成金には法人税が課せられますが、助成金を受け取った事業年度にその全額を法人税の課税対象にしてしまうと、実際に使える額が減ってしまいます。そうすると、固定資産の購入に支障をきたすことが考えられます。

これを避けるため、圧縮記帳によって助成金の額を圧縮し、課税の時期を翌期以降に繰り延べる処理が認められています。

助成金の支給における消費税は「不課税」

支給された助成金は、法人税の課税対象にはなりますが、消費税の課税取引にはあたりません。したがって、助成金を受け取った際に行う会計処理において、消費税の課税区分は「不課税」となります。

例えば、助成率3分の2の助成金に対して、税込330万円の機械購入費を申請し、220万円の助成金が支給されたとします。この場合、220万円の全額が消費税の適用外となり、不課税取引として会計処理することになります。

法人税・所得税はかかる?

先にもお伝えしたように、受給した助成金には原則として、法人の場合は法人税が、個人事業主の場合は所得税が課せられます。雇用調整助成金などのように、休業手当などとして従業員へ支払われるものは、給料と同様の取り扱いとなり、所得税が課せられる点にも注意が必要です。

助成金の種類や用途、条件などによっては非課税となる場合があります。例えば、研究開発や地域振興のために支給される際は課税対象外になる、といったケースも見受けられます。

また、給付金について触れると、支援策の一環として交付された「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」や「特別定額給付金」は、特例法の制定により、所得税の課税対象外でした。

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助成金は消費税分の返還が必要になるケースがある

助成金の支給額には消費税は課せられませんが、助成金を使用する対象に消費税分にあたる金銭が含まれている場合、返還が必要になることがあります。次から詳しく見ていきましょう。

消費税分を含む助成金を受け取った場合、返還義務が発生する

助成金の支給分については消費税の不課税取引となるため、そこに消費税は含まれていません。

しかし、先ほどの例はどうでしょうか。助成金の対象経費を税込330万円で申請し、220万円の助成金が支給された場合、220万円のうち10%分の20万円は、明らかに消費税に該当する部分です。これでは国や地方公共団体などから、20万円分の消費税の還付を受けたのと同じ意味になってしまいます。

このように、消費税分を含む助成金を受け取った場合は、先の事例ならば、消費税分にあたる20万円を返還する必要があるのです。

●返還するのは助成金に含まれる「仕入控除税額」
さてここまで読むと、「最初から消費税を差し引いた分を、助成金として申請すればいいのでは?」と思うかもしれません。
それができれば一番良いのですが、できない事業者がいます。まずは、消費税の基本的な仕組みからおさらいしよう。

消費税は、課税事業者が売上価格に消費税を転嫁させ、最終的に消費者が税金を負担する「間接税」の仕組みを採っています。課税事業者は、基本的に顧客から受け取った消費税から、事業のために支払った消費税を控除した額を納税します。
例えば、次のような会社があったとします。

・課税売上高 税込2,200万円(うち消費税200万円)
・課税仕入れ 税込880万円(うち消費税80万円)

この会社の場合、売上と一緒に受け取った消費税200万円から、事業のために支払った消費税80万円を控除した、差額の120万円を納税します。この80万円のことを「仕入控除税額」といいます。

返還が必要となるのは、助成金に含まれる「仕入控除税額」です。しかし、課税事業者の中には、80万円全額を仕入控除税額にできない事業者が存在します。仕入控除税額の計算方法が、その事業者の「課税売上割合」と「課税売上高」によって次のように変わるからです。

●仕入控除税額の計算方法

課税売上割合と課税売上高 計算方法
課税売上割合95%以上
かつ
課税売上高5億円以下
・全額控除できる
課税売上割合95%未満
または
課税売上高5億円超
・全額控除できない
・個別対応方式か一括比例配分方式で計算する

「課税売上割合」とは、課税期間中の売上高のうち、課税売上が占める割合のことです。
課税売上が占める割合が高ければ、その事業が支出した経費は、おおむね課税売上を生みだすための支出であると考えられるため、経費にかかった消費税の全額を仕入控除税額とすることができます。

しかし、この割合が95%未満になると、支出した経費には非課税売上のために支出したものもそれなりに含まれているため、経費にかかった消費税すべてを仕入控除税額とすることは適切ではありません。
また、課税売上が5億円を超えるような大規模な売上がある場合は、たとえ99%が課税売上で非課税売上が1%だとしても、その非課税売上のために支払った消費税は決して安くありません。そのため、全額を仕入控除税額にすることはできないのです。

まとめると、以下のいずれかに該当する場合、支払った消費税の一部しか仕入控除税額に計上することができなくなります。

・課税売上割合95%未満
・課税売上高5億円超

仕入控除税額の計算方法は、個別対応方式と一括比例配分方式のどちらかを選択することになりますが、いずれも計算のために「課税売上割合」が必要です。

●課税売上割合は事業年度の途中ではわからない
ここからが大事ですが、課税期間の途中で助成金の対象経費を支出して申請する場合、その時点では課税売上割合は確定していません。つまり、助成金の対象経費のうち、消費税分の返還の対象になる仕入控除税額が計算できないということです。

そのため、一旦消費税額も含めた金額で助成金を申請し、消費税の確定申告を行った後に、申告した仕入控除税額の中で助成金に相当する部分を国や地方公共団体に返還することになります。

ただ、助成金の中には、全額控除となることが明らかである場合は、あらかじめ消費税分を減額して申請することを公募要領などで規定しているものもあります。これができれば、消費税分を返還することはありません。
ただし返還額が0円であっても、報告だけは求められる場合もあるので、助成金の要領に記載されているルールなどで確認する必要があります。

助成金の消費税分返還が発生する事例

助成金の消費税分の返還が必要になるのは、そもそも申請した助成金の対象となる経費が、課税取引である場合に限られます。

例えば、事務所の賃貸料や設備の導入費といった経費が消費税の課税取引となります。不課税取引となる給与や印紙代などから、消費税分の返還は生じません。また、返還の対象となるのは、一般課税による課税事業者です。免税事業者や簡易課税事業者は、返還の対象となりません。

●消費税分の返還の計算例
それでは、消費税分の返還額の計算方法を確認しましょう。

【例:株式会社A社の課税期間中の取引】
・課税売上高 1億円
・課税売上割合 70%(一括比例配分方式)
・支給された助成金 110万円
・税率10%(消費税7.8%+地方消費税2.2%)の取引のみと仮定

<計算式>
・消費税
7万8,000円(110万円×7.8/110)・・・A
・地方消費税
2万2,000円(7万8,000円×2.2/7.8)・・・B
・助成金に含まれる仕入控除税額
(A+B)×70%=7万円

よって、A社が受給した助成金の消費税分の返還額は、7万円となります。

受け取った助成金に消費税分が含まれている場合は返還手続きを

助成金の基本や消費税分の返還義務について解説してきました。この記事のポイントをわかりやすくまとめると、以下の通りです。

・助成金の会計処理は、収入計上することと他の経費と区分することに注意
・助成金には、法人税が課税されるが、消費税は不課税となる
・助成金に、消費税にあたる金銭が含まれていれば、仕入税額税額に相当する額を返還する


助成金の申請時には、消費税分の返還手続きについて公募要領などで一度確認しましょう。返還額の計算方法に迷った時は、返還先の機関や税理士に相談すると良いでしょう。