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財務会計と管理会計の違いとは?企業会計の基本
企業会計には財務会計と管理会計がある
企業会計は、企業経済を報告するための会計のことを指します。会計は、企業の現況を見極めることはもちろん、将来的な計画を立てる際にも役立つため経営者にとって必須の知識といえます。ここでは、「財務会計」と「管理会計」がどのようなものであるか、また、「企業会計原則」についても触れていきます。
財務会計とは?
財務会計とは、Financial Accounting、制度会計とも呼ばれており、日々の取引を法律や規則、会計基準、会計原則、会計公準等に基づいて集計・計算し、所定の方法で決算書類を作成するものです。企業の規模や機関(取締役会設置の有無など)に応じて情報開示先が異なり、準拠するルール・目的も異なります。
たとえば中小企業の場合は、厳密な会計基準によらず、税法に基づく処理であれば会社の正規の決算書としても差し支えありません。それによって会社法の数値を確定し、税金も計算します。そして、金融機関との取引があれば決算書や申告書を開示することになります。
一方、上場している大規模な企業になると、会計基準に厳密に従うことになるうえ、複数の形式の決算書類を作成する必要があります。つまり、会社法に基づく「計算書類」について株主の承認を受けたり、株主へ報告したりすることが求められます。
また、企業会計基準委員会や国際会計基準審議会が公表する「会計基準等」に則り、金融商品取引法に基づく「財務諸表」を作成し、投資家に向けて情報を開示することになります。
財務会計は、会社間や時系列での比較、納税者間での公平性などを担保するために、基準や厳密なルールを設けることが意味を持つものと考えられます。
企業会計原則とは?
各種の基準や原則のうち、会社規模を問わず参照されることがある「企業会計原則」について説明します。これはもともと、企業会計の実務の慣習として発達したものを要約したものであり、すべての企業がその会計を処理するにあたって従わなければならない基準でした。
公表は1949年と古く、その有効性について議論があるところではあるものの、考え方として参考になります。
企業会計原則は、以下から成ります。
・一般原則
・損益計算書原則
・貸借対照表原則
一般原則は、以下を指します。
1. 真実性の原則
2. 正規の簿記の原則
3. 資本取引・損益取引区分の原則
4. 明瞭性の原則
5. 継続性の原則
6. 保守主義の原則
7. 単一性の原則
この原則を知っておくことで、財務会計における会計処理をする際に、「一度決めた会計方針は継続して用いることになるため、慎重に決定しなければならない(継続性の原則)」「将来起こり得るリスク事象の発生可能性等に鑑みて、損失を正確に見積もる必要がある(保守主義の原則)」と答えることができます。
また、損益計算書原則は、抜粋すると以下のような記載があります。
・損益計算書は、経営成績を明確にする
・すべての費用及び収益は、発生した期間に処理すること(発生主義)
・費用及び収益は総額で表示することとし、費用と収益を直接相殺しないこと(総額主義)
・収益とそれに関連する費用項目を損益計算書に対応表示させる(費用収益対応の原則)
・売上高から売上原価を控除して売上総利益を表示し、売上総利益から販売費及び一般管理費を控除して営業利益を表示する。営業利益に営業外費用と収益を加減して経常利益を表示する
・当期純利益は、税引前当期純利益から当期の負担に属する法人税額、住民税額等を控除して表示する
加えて、貸借対照表原則は、抜粋すると以下のような記載があります。
・貸借対照表は、財政状態を明らかにする
・資産及び負債は総額で表示することとし、資産と負債を直接相殺しないこと(総額主義)
・資産の部を流動資産、固定資産及び繰延資産に、負債の部を流動負債及び固定負債に区分する
普段から意識することはないですが、有事の際や今の会計制度を理解するうえでは、概要を知っておくと理解の助けになります。
管理会計とは
管理会計は、Management Accountingといい、経営者の意思決定に用いる会計のことを指します。設計の自由度が高く、会社ごとに構築が可能です。他社との比較可能性を持たせる必要性に乏しいことから、統一基準は設けず、対象となる事象や集計方法を会社に委ねています。これを開示することを義務付ける法定等はありません。
管理会計についてのフレームワークには、以下のものが挙げられます。
・店舗別/部門別会計
・直接原価計算
・活動基準原価計算
これらの詳細は後述しますが、費用集計のタイミングや内容・方法を企業任意で定め、意思決定に用いることができる性質を備えています。
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財務会計と管理会計はどこが違う?
「財務会計」と「管理会計」は実際のところ、どのような違いがあるのでしょうか。ここでは、目的・適用範囲・開示の3つの視点から、その違いについて解説します。
目的の違い
財務会計は外部用、管理会計は内部用とよくいわれます。財務会計の主な目的は外部ステークホルダーへの説明です。諸説ありますが、会計の起源は事業の出資者への説明責任を果たすための機能であることから、ルールに基づいた財務会計によって外部に説明する目的で使用されます。
ただし、財務会計はルールが決まっているため、他社との比較可能性は大きい反面、必ずしも意思決定をするための会計数値になっているとは限りません。そこで、内部の意思決定用に管理会計を自由に設計することで、集計することができます。
適用範囲の違い
財務会計は全社数値を対象としています。決算書をはじめ、会社法に基づく計算書類や上場企業が開示する決算短信及び有価証券報告書などに記載のある財務諸表は、全社の業績を表示しています。また、事業におけるすべての取引を対象としており、漏れなく記帳することが必要です。
一方、管理会計は、全社を対象とする場合もあれば、事業や組織を細分化して集計することもあります。このとき、すべてを集計して全社合計に一致させることはしなくても問題ありません。そのことから、事業における取引を網羅的に処理する必要はなく、対象としたい事象を選択することが可能です。
開示の違い
財務会計においては、法や規則で定められた開示方法があります。計算書類や有価証券報告書のほか、決算短信は有価証券上場規程などに基づいています。どのような内容をどのように開示すべきかが定められているうえ、場合によってはその内容を会計監査人等が監査することで、正しさを担保する仕組みです。管理会計については開示する義務はないですが、会社によっては開示するケースもあります。
財務会計が企業会計で果たす役割とは?
財務会計には2つの機能があるといわれています。「情報提供」と「利害調整」です。
情報提供とは、投資家に向けて会社や事業の情報を提供することです。投資家は、投資対象企業の経営成績や財政状態がどうかを知ることで、インカムゲインやキャピタルゲインの期待を予測して投資判断します。そのための情報を提供することが1つ目の機能です。
利害調整とは、利害関係者、特に債権者と株主や、投資家と経営者の間の利害調整を指します。株主への配当が過大になると債権者のリスクが上昇するため、配当可能利益を財務会計で確定させます。また、経営者が自己の保身や利益を優先して株主の利益を棄損させることがないよう、説明責任を果たすことやモニタリングをするための基礎となるのが財務会計です。
財務会計で開示する決算書の5つの種類
財務会計で開示する決算書には、以下のものが存在します。
・貸借対照表
・損益計算書
・株主資本等変動計算書
・キャッシュ・フロー計算書
・個別注記表
どの決算書も企業の経営状況や財務状況を知る上で非常に重要なものです。また、それぞれ表している内容は異なるため、その違いをしっかりと頭に入れていきましょう。
1.貸借対照表
ある時点での財政状態である、資産・負債と純資産の状況を表示するものです。資産や負債は従来定義されていませんでしたが、概念フレームワークにて定義づけが試みられています。たとえば資産の定義は以下のとおりです。
・企業が過去の事象の結果として支配している現在の経済的資源
・経済的資源とは、経済的便益を生み出す潜在能力を有する権利
これを満たす場合に、資産として認識します。
2.損益計算書
ある期間での経営成績を表示するものです。その期間で発生した売上高と、その売上高に紐づく売上原価、期間で発生した費用等を集計します。売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益という段階利益で経営成績を表します。
3.株主資本等変動計算書
貸借対照表のうち純資産の変動の内訳を表示するものです。資本金や資本準備金のほか、利益剰余金、自己株式等がどれだけ動いたのかを新株の発行、配当金の支払等の原因ごとに金額を記載して表示します。
4.キャッシュ・フロー計算書
ある期間での現預金の動きを表示するものです。損益計算書が会計上の概念である一方で、キャッシュ・フロー計算書では資金の実際の動きを以下の原因別に示すことができます。
・営業活動によるキャッシュ・フロー
利益や売掛金、在庫等の動きによる資金の変動を表す
・投資活動によるキャッシュ・フロー
固定資産や有価証券等の動きによる資金の変動を表す
・財務活動によるキャッシュ・フロー
借入金の借入や返済等の動きによる資金の変動を表す
5.個別注記表
上記で説明してきた書類の詳細を説明するものを指します。たとえば、固定資産の減価償却方法や消費税計算といった会計方針、貸借対照表や損益計算書のうち関係会社との取引等を記載します。
管理会計の代表的な4つの管理対象
ここでは、管理会計の代表的な管理対象について解説します。
1.予算管理
事業活動の予算を策定し、実績と照らして業績やコスト管理をするのは管理会計の一種です。とくに部門別の予算や、予算実績差異のフィードバックという機能は財務会計にはありません。また、実績として用いる数値も必ずしも財務会計ベースとは限りません。
2.店舗別/部門別会計
財務会計の対象は、一部では事業セグメントでの開示はありますが、基本的には全社を対象とした数値です。それを細分化して、店舗ごとや部門ごとに集計をすることは、会社の任意であり、管理会計の範疇となります。どの店舗や部門に、どの費用を負担させるか等の意見が入ることになります。
3.直接原価計算
売上高から変動費を差し引いたものを限界利益といいます。変動費とは売上高と連動して発生する費用を指し、固定費は売上高の多寡に関わらず発生する費用を指します。変動費や固定費の具体的な範囲は各社の判断で決めることができます。これによって、売上高をいくら獲得すれば固定費を回収できるのか、損益分岐点を把握することができます。
4.活動基準原価計算
原価計算をする際に、活動をベースに原価計算をするものです。従来の原価計算は、直接集計できるものは直接原価としますが、できないものは間接費としてプールして、直接労務費や直接作業時間などを基準にして計算します。財務会計においては一定のルールで原価計算を実施しますが、これが実態を表していない可能性が指摘されています。
そこで、原価をより正しく把握するために、間接費をより実態に合った「活動」を利用して計算します。この結果を基に意思決定をすることは可能ですが、財務会計で用いることはできません。
これらは一例であり、管理会計をうまく活用することによって、企業の活動評価や状態をより正しく把握し、業績管理のしやすさやコスト削減、適切な投資判断等のメリットを享受することが可能です。
財務会計と管理会計を適切に活用する
財務会計と管理会計は、同じ「会計」でも性質が全く異なるということをご理解いただけたでしょうか。財務会計はルールが決まっており、正しさのお墨付きや他社との比較がポイントとなります。管理会計は自由度が高く、自社の意思決定に本当に資するものを設計できます。両方の目的や手続きを理解し、適切な情報開示や意思決定をしていただきたいです。
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