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【建設業必見】法定福利費とは?仕訳・計算方法や福利厚生費との違い
さらに、建設業で見積書への記載が求められる理由や、見積書への記載方法など、建設業に特化した内容も詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
法定福利費とは?
法定福利費とは、企業が法律に基づき従業員に対して提供する保険や費用のことです。法定福利費に含まれるものは、健康保険や厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険などの社会保険料、また労働者の退職給付に関連する費用などです。これらは企業が法律に従って支払わなければならない費用であるため「法定」福利費と称されます。
法定福利費の対象となる保険の種類一覧
法定福利費に含まれる保険料について、それぞれ詳しく見てみましょう。法定福利費は「社会保険料」と「労働保険料」の2つに大別でき、さらにその中で7つの項目に分けて解説します。
法定福利費は社会保険料と労働保険料に分けられる
法定福利費は、大きく社会保険料と労働保険料の2つに分類されます。社会保険料には、健康保険や厚生年金保険、介護保険が含まれ、これらは従業員の健康や老後の生活、介護リスクに備えるための制度です。
これらは企業と従業員がそれぞれ負担を分け合って支払います。また、厚生年金保険には子ども・子育て拠出金が含まれ、そちらは企業が全額負担します。
労働保険料には雇用保険と労働者災害補償保険(労災保険)が含まれ、失業時の生活保障や業務中の事故・災害時の補償が主な目的です。労災保険料は企業が全額負担し、雇用保険料は企業と従業員で負担します。
これらの保険料を適切に管理することは、企業として従業員を守り、社会的責任を果たすための重要な義務です。
健康保険料
健康保険料は、従業員が病気やけがをした際に医療費の自己負担を軽減するための制度です。保険に加入していることで、医療機関での診察や治療時に、通常は3割程度の自己負担で済む仕組みになっています。
また、病気やけがにより長期の休業が必要になった場合には、一定期間「傷病手当金」が支給され、生活を支えることが可能です。さらに、出産した際には「出産手当金」も支給されるなど、あらゆる状況に対応できるように内容が整備されています。
保険料は従業員の標準報酬月額に基づいて計算され、企業・従業員で折半して支払います。健康保険は、従業員の健康や生活の安定を図るための非常に重要な制度であり、企業の法定福利費に含まれる主要な項目のひとつです。
厚生年金保険
厚生年金保険は企業が従業員に提供する年金制度の一環で、65歳以降に支給される「老齢基礎年金」を中心に、障害厚生年金や遺族厚生年金といった保障も含まれています。厚生年金保険に加入しておくことで、従業員は定年を迎えた際に国民年金に上乗せして一定の年金を受け取ることができます。
また、従業員が障害を負った場合には「障害年金」が支給され、死亡した場合には「遺族年金」が家族に支払われるなど、家族を含めた長期的な保障が提供されることも特徴です。
保険料は従業員の標準報酬月額を基に計算され、企業と従業員が折半して負担します。従業員の老後の生活に安定をもたらすために必要な制度です。
介護保険料
介護保険料は、40歳以上の従業員が負担する保険で、介護が必要な高齢者や障害を持つ人に対する介護サービスを提供するための制度です。介護保険には2つの区分があり、65歳以上の「第1号被保険者」と、40歳以上64歳以下の「第2号被保険者」に分かれています。
第1号被保険者は市町村を通じて保険料を直接支払いますが、第2号被保険者は給与から天引きされ、健康保険と併せて企業と従業員で折半して負担します。
介護保険料は、要介護状態になった場合に介護サービスを受けるための財源となり、利用者が自己負担する費用の大幅な軽減が可能です。特に高齢化社会において、介護保険は安心して老後を過ごすための重要な制度となっています。
雇用保険料
雇用保険料は、従業員が失業した場合や育児休業、介護休業を取得した際に生活を支援するための保険です。主な給付には「失業等給付」や「育児休業給付」などがあり、雇用の継続や生活の安定をサポートする役割を果たしています。
さらに、求職者支援や職業訓練といった事業にも使用されており、従業員が働き続けるための環境を整えるために不可欠な制度です。保険料は従業員の賃金総額を基に計算され、企業と従業員がそれぞれ一部を負担します。
業種ごとに保険料率が異なり、事務職やサービス業、製造業などで適用される保険料率が決まっています。企業は、従業員の安定した就業を保障するために、この保険料を適切に負担することが重要です。
労働者災害補償保険料(労災保険料)
労働者災害補償保険(労災保険)は、従業員が業務中や通勤中に事故やけがなどをした場合に、医療費や休業補償を提供するための保険です。保険の対象となる災害は「業務災害」「複数業務要因災害」「通勤災害」の3種類に分かれ、従業員が業務上や通勤中に負ったすべての災害に対して適用されます。
保険料は業種ごとに異なる料率で計算され、企業が全額負担します。労災保険は、正社員だけでなくパートタイムやアルバイトなど、雇用形態にかかわらずすべての従業員に適用されるため、企業が従業員を守るために必ず加入しなければなりません。
労働災害が発生した場合、治療費や休業中の賃金補償、さらには障害が残った場合の一時金なども支給され、従業員の生活を支える役割を果たします。
子ども・子育て拠出金(旧:児童手当拠出金)
子ども・子育て拠出金は、企業が負担する子育て支援のための費用です。主に児童手当や放課後児童クラブ、保育サービスなどに充てられ、国や地方自治体が実施する子育て支援サービスの財源として使用されます。企業が従業員の標準報酬月額に基づいて計算し、費用として全額を負担します。
少子化問題に対応するため、社会全体で子育てを支援する仕組みとして、企業の役割が求められるようになりました。企業はこの拠出金を適切に支払い、従業員が安心して子育てに専念できる環境づくりに貢献する必要があります。
法定福利費と福利厚生費の違いは?
法定福利費と混同されやすいものとして福利厚生費があります。主な3つの違いについて見てみましょう。
・要件
法定福利費は、企業が法律で義務付けられた支出であり、適用対象や金額、支払い時期などは具体的に法律に規定されています。一方、福利厚生費は企業が自発的に行うものであり、その内容や規模は企業の経済状況や経営方針、従業員のニーズなどにより大きく変わります。
・対象
法定福利費は、基本的にすべての従業員が対象です。一方、福利厚生費は、全従業員を対象とするものもあれば、一部の従業員だけを対象とするものもあります。例えば、役員のみが利用できる保養所の運営費などは福利厚生費に含まれます。
・金額の設定方法
法定福利費の金額は法律によって決まりますが、福利厚生費の金額は企業が自由に設定可能です。ただし、その金額は社会通念上妥当でなければなりません。つまり、適切な範囲内での支出であることが求められます。
極端に高額な福利厚生は税務上問題となり、企業の財務健全性を損なう恐れがあります。また、従業員の公平性を担保するためにも、福利厚生費の配分は公正かつ透明であるべきです。
法定福利費の計算方法
法定福利費は、従業員の賃金や標準報酬月額を基に計算されます。各保険料がどのように計算されるのか、具体的な計算も併せて見てみましょう。
健康保険料の計算方法
健康保険料は、従業員の標準報酬月額に基づいて計算されます。保険料率は都道府県ごとに異なり、各地域の保険料率を加味します。例えば、標準報酬月額が30万円で、2024年の東京都の健康保険料率である9.98%(介護保険第2号被保険者に該当しない場合)を適用すると、計算式は以下のとおりです。健康保険料は企業と従業員で折半となるため、個人の負担分は半分です。
●報酬月額30万円の場合 (健康保険料)30万円 × 9.98% = 29,940円 (企業/個人負担分)29,940円 ÷ 2 =14,970円 |
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料も、標準報酬月額を基に計算が可能です。厚生年金保険料率は全国一律で、2024年時点では18.3%です。例えば、標準報酬月額が30万円の場合、厚生年金保険料は以下のように計算することができます。
●報酬月額30万円の場合 (厚生年金保険料)30万円 × 18.3% = 5万4900円 (個人負担分)5万4900円 ÷ 2 = 2万7450円 |
介護保険料の計算方法
介護保険料は、標準報酬月額に健康保険組合が毎年見直している介護保険料率をかけて計算します。
40〜64歳の介護保険第2号被保険者に該当する従業員の場合、2024年時点で介護保険料率は全国一律1.60%です。例えば、標準報酬月額が30万円の場合、介護保険料は以下のように計算することができます。
●報酬月額30万円の場合 (介護保険料)30万円 × 1.60% = 4,800円 (自己負担分)4,800円 ÷ 2 =2,400円 |
雇用保険料の計算方法
雇用保険料は、従業員の賃金総額に対して計算され、雇用保険料率は業種によって異なります。例えば、事務職やサービス業などの一般事業では、2024年時点で雇用保険料率は1.55%、建設業では1.85%です。それぞれ計算例を見ていきましょう。
●一般業(賃金総額:360万円)の場合 雇用件料率1.55%の内訳は従業員負担が0.6%、事業主負担が0.95%なので、それぞれの負担額を計算する場合は以下のとおりです。 (雇用保険料)360万円 × 1.55% ÷12ヵ月 = 4,650円 (従業員負担分)360万円 × 0.6% ÷12 = 1,800円 (企業負担分)360万円 × 0.95% ÷ 12 = 2,850円 |
●建設業(賃金総額:360万円)の場合 建設業の雇用保険料率1.85%の内、従業員負担が0.7%、事業主負担が1.15%なので、月々の保険料と従業員負担額は以下のとおりです。 (雇用保険料)360万円 × 1.85% ÷ 12ヵ月= 5,550円 (従業員負担分)360万円 × 0.7% ÷ 12ヵ月 = 2,100円 (企業負担分)360万円 × 1.15% ÷ 12ヵ月 = 3,450円 |
労災保険料の計算方法
労災保険料は、雇用形態にかかわらず企業が全額負担する保険です。労災保険料率は業種ごとに異なり、また業種の中でも細かく設定されています。
労災保険料は企業が全額負担するため、従業員には負担が発生しません。業務上の事故や災害に対する保障であるため、特に危険を伴う職場では保険料率が高くなる傾向にあります。
●建設業(賃金総額:360万円)の場合 建設業では「道路新設事業」や「舗装工事業」「鉄道又は軌道新設事業」などに分けられています。労災保険料率が9.5%の「建築事業(既設建築物設備工事業を除く。)」を例として賃金総額が360万円の場合の月額雇用保険料は以下のように計算できます。 (労災保険料=企業負担分)360万円 × 9.5% ÷ 12ヵ月 = 2万8,500円 |
子ども・子育て拠出金の計算方法
2024年時点で子ども・子育て拠出金率は0.36%に設定されています。標準報酬月額が30万円の場合の計算は次のとおりです。子ども・子育て拠出金は企業が全額負担するため、費用として考慮する必要があります。
●報酬月額が30万円の場合 (子ども・子育て拠出金=企業負担分)30万円 × 0.36% = 1,080円 |
建設業では工事費を基に計算する方法も
建設業においては、労務費や工事費を基に法定福利費を算出することも可能です。例えば、労務費総額が500万円で法定保険料率が10%の場合、法定福利費は以下のように計算されます。
500万円 × 10% = 50万円 |
また、工事費の増減などが労務費と比例する場合には、以下のように工事費や工事数量に基づく計算方法もあります。
・工事費 × 工事費当たりの平均的な法定福利費の割合 ・工事数量 × 数量当たりの平均的な法定福利費 |
法定福利費の仕訳方法
法定福利費の仕訳は、従業員の給与から保険料を天引きした時、もしくは実際に納付する時の2つのパターンが考えられるでしょう。ここでは、具体的な勘定科目や仕訳方法について詳しく解説します。
従業員の給与から法定福利費を天引きした時
従業員の給与から健康保険料や厚生年金保険料を天引きする場合、次のように仕訳を行います。例えば、従業員に支払う給料が30万円で、健康保険料と厚生年金保険料の従業員負担分が合計5万円の場合の仕訳は次のとおりです。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
給与手当等 | 300,000円 | 普通預金 | 250,000円 |
預り金 | 50,000円 |
社会保険料の天引きは、従業員から預かって代わりに支払うという処理になるため「預り金」扱いになります。
翌月末に法定福利費を支払う時
企業が従業員から天引きした保険料と企業負担分をまとめて納付する際の仕訳は、次のようになります。例えば、総額10万円を納付する場合(従業員負担分5万円、企業負担分5万円)の仕訳は次のとおりです。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
法定福利費 | 50,000円 | 普通預金 | 100,000円 |
預り金 | 50,000円 |
事業主が負担する法定福利費と従業員から預かった社会保険料は、まとめて普通預金から支出するという仕訳方法が一般的です。
また、雇用保険料と労災保険料は、年間の賃金が確定してから年度末に1年分をまとめて納付します。年度当初に前年度の賃金を基にした見込み額を納めておき、差額を清算する年度更新を行いましょう。見込み額を納付する場合、従業員の負担分は立替金、事業主の負担分は前払費用として計上します。
簡略した場合の仕訳
法定福利費の仕訳が複雑になる場合、預り金を省略して簡単に仕訳することも可能です。例えば、従業員負担分を預り金として扱わず、すべて法定福利費として一括して計上する方法です。この場合、仕訳は次のようになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
法定福利費 | 100,000円 | 普通預金 | 100,000円 |
このように簡略化することで仕訳処理をスムーズにできますが、従業員負担分を明確に把握したい場合は、通常の方法で仕訳しましょう。
建築業は要注意!見積書に法定福利費を含めて提出することが義務付けられている
建築業においては、特に労働安全衛生法や建設業法などに基づく法定福利費の支払い義務が重視されています。そのため、見積書に法定福利費を含めることが求められ、その提出が義務化されています。
建設業では見積書に法定福利費の記載義務がある
平成25年から、建築工事の発注者は、元請け業者から見積りを受ける際に労働者の法定福利費を含んだ詳細な見積書を提出させることが義務付けられました。これにより、法定福利費を適切に支払っているかどうかが明確になり、労働者の権利保護が強化されています。
各種保険へ未加入企業は仕事ができない
労働者の保護と企業の信頼性確保のため、法定福利費に含まれる各種保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険など)への加入は必須です。未加入の企業は、法令遵守が疑われ、仕事の受注が難しくなる恐れがあります。
・元請け企業が確認するポイント
元請け企業は、下請け企業からの見積書を受け取る際に、法定福利費が適切に計上されているか確認することが求められます。また、下請け企業が各種保険に加入しているかどうかも確認すべきです。これにより、法令遵守と労働者の権利保護が確保されます。
・下請け企業が確認するポイント
下請け企業は見積書を作成する際に、自社の法定福利費を正確に計算し、見積金額に含めることが重要です。また、法定福利費の内訳や計算方法を明示し、元請け企業への説明責任を果たすことが求められます。また、自社が各種保険に加入していることを確認し、必要に応じて証明書を提出することも重要です。
法定福利費を内訳表示する際の見積書の作り方と記入例
上述したように、建築業においては、見積書に法定福利費を含めることが求められます。見積書にどのように記載すれば良いかわからないという方に向けて、法定福利費を内訳表示する際の見積書の作り方と、見積書の記入例をご紹介します。
見積書は以下の手順で作成しましょう。
1. 労務費の計算
まずは仕事に必要な労務費を計算します。これには、従業員の賃金、残業代、一時金などが含まれます。
2. 法定福利費を算出
次に法定福利費を算出しましょう。これには、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険などが含まれます。各保険の掛け率は、それぞれの保険の法律や規則に基づいて定められています。
3. 法定福利費を見積書に記載
労務費と法定福利費を合計し、それを見積書に記載しましょう。具体的には「労務費」と「法定福利費」を別々の行に記載し、その金額をそれぞれ記入します。
4. 消費税の計算は法定福利費込みで行う
見積書の最後には消費税を計算します。この時、税率を労務費と法定福利費の合計に適用し、その結果を見積書に記載してください。
法定福利費を適切に計上しよう
法定福利費とは、企業が従業員に対して提供する保険や費用のことであり、法律に基づいて正しく運用する必要があります。代表的なものとしては、健康保険・厚生年金保険・介護保険などがあり、よく混合される福利厚生費とは要件などが異なります。
建築業では、労働安全衛生法や建設業法などに基づく法定福利費の支払いが義務付けられているため特に注意が必要です。今回ご紹介した方法を参考に、見積書に法定福利費を記載しましょう。
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