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約束手形・小切手は2026年度末までに廃止!代替手段「でんさい」とは?
今回は約束手形が廃止となる理由、約束手形から他の決済方法への移行方法について解説します。
約束手形とは?
約束手形とは、金銭の支払いを約束する書面であり、一定の要件を満たすことで法的効力を持つ有価証券です。約束手形は、手形を発行し、代金を支払う人を「振出人」、手形による支払いを受ける人を「受取人」と呼び、使用されます。また、振出人が支払い義務を果たさない時にはその支払いを担保する「保証人」が関与する場合もあります。
約束手形の振出人は、決済資金を期日までに、指定の金融機関に準備しておく必要があります。受取人は、期日になったら自社と取引のある金融機関に手形を持ち込み、手形の取立を依頼し、現金化の手続きを行います。
約束手形には「手形割引」や「裏書譲渡」という特徴もあります。
手形割引とは、受取人が約束手形を支払期日前に金融機関や手形割引業者に売却し、現金化する手続きです。通常、期日前に現金を受け取ることはできませんが、手形割引を利用することで、急な資金ニーズに対応できます。
裏書譲渡とは、受取人が約束手形の裏面に自分の名前や社名を記載・押印して、第三者に譲渡する手続きです。手形を支払期日前に利用し、買掛金の支払いなどに活用できます。
このような活用方法を取り入れながら、約束手形は企業間取引などで広く使われてきました。しかし、企業による資金需要が縮小に転じたこと、資金の調達手法の多様化などを背景に、なじみのある決済手段としての需要はあるものの、約束手形の発行残高は減少していきました。
中小企業庁が令和3年3月に公開した「約束手形をはじめとする支払条件の改善に向けた検討会報告書」では、約束手形の現状として、次のように報告されています。
支払手形の残高は1990年度の約107兆円をピークに減少基調に転じ、足下は25兆円まで減少している。ただし、2007年度以降下げ止まってきており、近年は若干上昇傾向も見られる。 |
紙の約束手形・小切手はいつ利用廃止? 電子化に向けたスケジュール
こうした約束手形の現状を踏まえ、政府は金融業界や産業界に紙の約束手形や小切手の廃止を呼びかけることになります。
2021年2月、政府は2026年までに、約束手形の利用廃止に向けた方針を決定しました。政府、産業界、金融界が連携し、電子化に向けた取り組みが進められ、中小企業庁や一般社団法人全国銀行協会など各所から約束手形の利用廃止に関する案内文も発出されています。
紙の約束手形・小切手の廃止と電子化は、おおむね以下のようなスケジュールで取り組まれてきました。
2021年6月 政府が公表した「成長戦略実行計画」に次の事項が盛り込まれる ・5年後の約束手形の利用廃止 ・小切手の全面的な電子化 2021年7月 「手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画」を一般社団法人全国銀行協会が公表。「2026年度末までに全国の手形交換所における手形・小切手の交換枚数をゼロにする」ことを目標に掲げる 2021年7月 政府や全国銀行協会の公表を受け、金融業界などで、手形・小切手の発行停止など手形・小切手の全面的な電子化に向けた取り組みが開始される 2022年7月 下請中小企業振興法「振興基準」が改正され、2026年の約束手形の利用廃止に向けて次の事項が追加される ・約束手形、一括決済方式及び電子記録債権のサイトについては、60日以内とするよう努めるものとする ・約束手形は、できる限り利用しないよう努めるものとする ~2026年度末までに 約束手形の利用廃止、小切手の全面的な電子化目標 |
約束手形・小切手はなぜ廃止される?
紙の約束手形・小切手が廃止されるのには、大きく次のような2つの理由があります。
①約束手形による支払いには問題点が多い
②経済産業省による紙の手形廃止と電子記録債権への移行推奨
それぞれについて、詳しく見ていきます。
理由①約束手形による支払いには問題点が多い
<約束手形による支払いの問題点> ・流動性が低い ・信用リスクがある ・紛失・盗難のリスクがある ・手続きが煩雑である ・期日管理の必要性がある ・手数料がかかる |
約束手形の利用を廃止する主な理由のひとつに、約束手形による支払いには問題点が多い点が挙げられます。
まず、手元に現金が入るまでの期間の長さが問題視されるでしょう。手形は振出日から3~4ヵ月後に入金されるケースも多く、その間はお金が入ってこず、 特に中小企業は自転車操業のところも多いため、資金繰りの悪化=倒産に陥りやすくなります。
リスクの問題もあります。相手の経営状況が悪化したり、倒産した場合に、手形を現金化できず、受取人が金銭的な損失を被る可能性があります。また紙を保管しておくと災害時などに紛失したり、盗難に遭うリスクもあるでしょう。
約束手形の発行や裏書、譲渡などの手続きが煩雑で、支払期日を管理する必要もあります。
また、手形割引や裏書譲渡による手数料、紙の約束手形のやり取りにおける印紙税や郵送費など、コストが増加する場合もあり、受け取れる金額が減ってしまいます。
理由②経済産業省による紙の手形廃止と電子記録債権への移行推奨
上記のような約束手形による支払いの問題点を解消し、受け取る側の資金繰りの負担を軽減するために、経済産業省は「現金による支払い」と「電子記録債権への移行」を推奨しています。
資金繰りのしわ寄せを防止するには受取側の企業ができるだけ早く現金を受領できることが大切です。そのためには、「現金による支払い」が大原則であり、現金払いが推奨されるよう、サプライチェーン全体で取り組んでいくことが重要であるとしています。発注側の企業においては、受注側の企業に対する支払方法を見直す必要があるでしょう。
また、この現金による支払いには、インターネットバンキングによる銀行振り込みなども含みます。
現金振込への移行が難しい場合は、電子記録債権が利用できます。電子記録債権は、紙の約束手形と同等の機能を有する支払い手段です。
印紙税や郵送料が不要で、手形の振出や取立などの手続きも簡素化できます。また、割引や譲渡も必要な分だけを分割して行えるなど、手形よりも融通の利く資金化が行えるのも特長のひとつです。
目まぐるしい速度でデジタル化が進むビジネスの場において、紙の手形や小切手を用いた取引は、より一層そぐわなくないものと捉えられるようになるかもしれません。また、決済手段の電子化を求める動きが強まっていくと考えられます。時代のニーズに合わせて柔軟に対応していきましょう。
電子記録債権について、次に詳しく解説します。
紙の約束手形の代替手段・電子記録債権「でんさい」とは?
電子記録債権とは、どういったものなのでしょうか。
電子記録債権は、2008年12月に施行された「電子記録債権法」により創設された、新しい決済方法です。この決済方法に期待されるのは、手形や売掛債権などの問題点の解消や、事業者の資金調達の円滑化などです。インターネットなどを通じて、電子記録債権を記録・管理する電子債権記録期間の記録原簿へ電子記録し、譲渡支払いに利用します。
電子債権記録機関には、全国銀行協会が設立した株式会社全銀電子債権ネットワーク(通称「でんさいネット」)があります。同社による電子記録債権を「でんさい」といい、でんさいネットの電子決済サービスは、2013年2月から提供されています。
でんさいは、専用のネットワーク「でんさいネット」上で取引先への支払いができる仕組みです。以下に、でんさいネットの特長、でんさいネットを用いた取引手順、導入の流れなどをご紹介します。導入の際の参考にしてください。
<でんさいネットの特長> ・中小企業の資金調達を円滑にするため、手形的に利用できる ・全銀行参加型で構築され、信頼性の高い資金回収が可能 ・金融機関を通じたアクセス方式により、既存の窓口を利用できる など |
<でんさいネットの取引イメージ> ①「でんさい」の発生 窓口金融機関を通じてでんさいネットの記録原簿に「発生記録」を行うと、「でんさい」が発生 ②「でんさい」の譲渡 窓口金融機関を通じてでんさいネットの記録原簿に「譲渡記録」を行うと、「でんさい」を譲渡できる。必要に応じて債権の分割譲渡もできる ③「でんさい」の支払 支払期日になると、自動的に支払企業の口座から資金を引き落とし、受取企業の口座へ払込みが行われる。受取企業は支払期日当日から資金を利用可 |
<導入までのおおまかな流れ(支払利用の場合)> ①導入検討・社内決定 ・コストメリットの試算 ・社内事務や会計システムの確認 ・体験デモの活用 ・導入スケジュールの立案・決定 ②案内状の送付 ・取引先企業に支払方法の切替を案内し、了承を得る ・利用者番号、口座情報を収集 ③導入準備 ・でんさいの利用契約 ・取引金融機関への申込 ・事務運用手順の整備や見直し ・パソコンの初期設定 ④支払開始 |
紙の約束手形・小切手の廃止がもたらす企業への影響
紙の約束手形・小切手が廃止されると、先に挙げた約束手形による支払いの問題点が解消されることになり、企業は現金や電子記録債権による支払いのメリットを得ることができます。主なメリットを3つ挙げ、以下に解説します。
コストを削減、事務負担を低減できる
紙の手形の場合、支払企業は手形に、受取企業は領収書に収入印紙を貼る必要があります。紙の手形の利用を廃止して電子記録債権への移行を図れば、印紙代の削減になり、コスト削減につながります。
また、双方の企業が事務負荷を軽減することができ、事務作業を効率化できます。支払企業は約束手形や小切手の振出作業が必要なくなります。一方で、受取企業が不要になるのは、領収書の作成、手形の保管や管理、取立依頼に関する事務作業などです。
紛失・盗難のリスクを低減できる
紙の手形や小切手などの現物がないため、支払企業、受取企業ともに、盗難や紛失の心配がありません。災害によるリスク、取立忘れのリスクなども低減でき、安心して取引を行うことが可能です。
また、紙の手形や小切手の場合、不正に作成された偽造手形や改ざんされた小切手が流通するリスクがあり、トラブルにつながる場合もあります。
現金による支払いや電子記録債権では、これらのリスクを回避でき、より安全な取引環境が整うでしょう。
資金繰りの円滑化を図れる
資金繰りの円滑化を図れる点は、最も大きなメリットといえるでしょう。
現金支払いや電子記録債権であれば、受取企業は支払期日まで待たなくても現金化できます。迅速な決済が実現し、下請企業の資金繰りの負担も低減するでしょう。また、額面が大きくなりやすい製造業や建設業の下請企業などでは、現金化までの時間が短縮されれば、資金繰りの負担の大きな改善も期待できます。これにより、効率的に業務を進めることができるようになり、競争力の向上につながります。
一方で、紙の手形の利用廃止によって混乱が生じるケースもあるでしょう。紙の手形での支払いを受けているため、やむを得ず自社でも振り出している、紙の約束手形の利用が習慣となっているといった場合などです。こうした場合、支払方法を切り替えるのが難しいかもしれませんが、受取人にとって紙の約束手形はリスクを伴うものです。利用廃止の流れを受けて、現金支払いや電子記録債権の導入を検討していきましょう。
次に、紙の約束手形・小切手の廃止に向けて企業に求められることを解説していきます。今後の取引方針を考える際の参考にしてください。
紙の約束手形・小切手の廃止に向けて企業に求められる対応
約束手形・小切手の利用廃止に関する取り組みの一環として、中小企業庁と公正取引委員会の連盟による通達(2021年3月31日付)において、以下の内容が明示されました。下請代金の支払いについて、次のとおりに実施するよう要請されています。
1 下請代金の支払は、できる限り現金によるものとすること。 2 手形等により下請代金を支払う場合には、当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて、下請事業者の負担とすることのないよう、これを勘案した下請代金の額を親事業者と下請事業者で十分協議して決定すること。当該協議を行う際、親事業者と下請事業者の双方が、手形等の現金化にかかる割引料等のコストについて具体的に検討できるように、親事業者は、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを示すこと。 3 下請代金の支払に係る手形等のサイトについては、60日以内とすること。 4 前記1から3までの要請内容については、新型コロナウイルス感染症による現下の経済状況を踏まえつつ、おおむね3年以内を目途として、可能な限り速やかに実施すること。 |
引用)公正取引委員会「下請代金の支払手段について」
下請代金の支払いはできる限り現金で行うことが求められています。また、下請代金の額は親事業者と下請事業者で十分協議して決定し、手形などの支払いサイトは60日以内と明示されています。企業としては、これらのガイドラインに早めに対応できるよう、社内での検討を進めることが重要です。
約束手形をやめるには?支払手形・受取手形それぞれの方法
約束手形の利用をやめるには、具体的にどうすれば良いのでしょうか。支払企業と受取企業のそれぞれの立場における対応方法をご紹介します。
支払手形をやめる方法
支払手形をやめる方法は主に次の3つです。それぞれについて、解説します。
・銀行からの借入を利用する
・現金決済金額を増やす
・定期預金を利用する
●銀行からの借入を利用する
支払手形をやめるためには、銀行からの借入れを利用して一気に返済する方法があります。ただし、借入金には利息がつくことを覚えておく必要があります。
銀行から融資を受けるためのポイントをまとめた資料もぜひご覧ください。
●現金決済金額を増やす
現金決済の金額を少しずつ増やしていき、複数年をかけて手形から現金決済に移行する方法です。
例えば、初年度は200万円、2年目は300万円、3年目は400万といった計画を立て、最終的に○○年で完全移行するという目標を立てておきます。
着実に現金決済に移行できますが、目標年数まで現金決済と支払手形の両方の資金を準備する必要があり、資金が潤沢である必要があります。
●定期預金を利用する
定期預金に毎月一定の金額を積み立てていく方法です。預金の金額が支払手形の残高を超えたタイミングで一気に支払いをします。
最もリスクが少なく着実に実施できる方法ですが、時間がかかる点が難点です。何年間で返済するか事前に決めておきましょう。
受取手形をやめる方法
受取手形をやめる方法は主に次の2つです。それぞれについて、解説します。
・下請法に基づいて対応する
・資金繰りを理由に取引先と交渉する
●下請法に基づいて対応する
下請法は、日本の下請け企業の権利を守るために制定された法律であり、主に下請け企業が支払い条件の改善や遅延損害金の請求を行うことができます。これを利用して受取手形をやめる方法を以下に示します。
1.下請法の適用範囲の確認
まず、自社が下請法の適用範囲内にあるか確認しましょう。下請法は、主に下請け企業と取引先(元請け企業)との間で発生する問題に対処するための法律ですので、適用されるかどうかを事前に確認しておくことが重要です。
2.支払い条件の改善交渉
下請法を利用して、取引先との支払い条件の改善交渉を行いましょう。具体的には、手形決済から現金決済への変更を提案し、受取手形の利用を減らすように働きかけます。
3.下請法に基づく相談・紛争解決
下請法に基づいて、支払い条件の改善や受取手形の問題に関する相談や紛争解決を行うことができます。自治体や商工会議所などに設置されている相談窓口を利用し、専門家のアドバイスを受けることができます。
これらの方法を利用して、下請法を活用し、受取手形をやめることができます。ただし、取引先との関係を損なわないよう、円満な交渉が大切です。事前に情報収集や準備を行い、適切な方法で取引先と話し合いましょう。
●資金繰りを理由に取引先と交渉する
資金繰りが厳しいことを理由に、受取手形から現金決済に変更してもらう方法もあります。例えば、以下のようなステップで取引先と交渉してみましょう。
1.事前準備
まず、自社の資金繰り状況や受取手形が現金化されるまでの期間を把握し、現金決済への変更が必要な理由を明確にします。具体的な数字やデータを用意しておくことで、交渉時に説得力が増します。
2.交渉のタイミング
取引先との関係や過去の実績を考慮して、適切なタイミングで交渉を行いましょう。例えば、新たな取引の開始時や契約の更新時など、双方が協議する機会があるタイミングが適切です。
3.誠意ある対応
取引先に対して誠意を持って交渉を行い、相手の立場や事情も理解しようとする姿勢が大切です。また、自社の資金繰り状況や現金決済への変更によるメリットを具体的に説明しましょう。
4.双方にメリットがある提案
現金決済に変更することで、取引先にもメリットがあることをアピールしましょう。例えば、支払いのスピードアップにより取引先の資金繰りが改善される点や、受取手形に関連するリスクが減る点などが挙げられます。
5.柔軟な対応
取引先の反応に応じて柔軟に対応しましょう。現金決済への一度の変更が難しい場合でも、徐々に現金決済の比率を高めるなど、段階的なアプローチを提案することが有効です。
これらのポイントを踏まえ、取引先との良好な関係を維持しながら、受取手形から現金決済に変更してもらう交渉を進めましょう。
実際に資金繰りにお困りの場合はこちらの資料もご覧ください。
紙の約束手形の廃止は2026年度末。電子化の検討を
約束手形は今後、利用廃止が予定されている決済方法です。約束手形での取引に慣れ親しんだ企業にとっては移行するのは簡単なことではないかもしれません。とはいえ、2026年度末以降は利用できなくなることが考えられるため、早めに対処する必要があります。
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