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財務・経理

財務レバレッジの計算式は?分析のポイントや指標の活用方法

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財務レバレッジの計算式は?分析のポイントや指標の活用方法
財務レバレッジとは、企業が借入資金を活用して資本(負債+純資産)を増やす手法です。この記事では、財務レバレッジの計算式や適正値、関連用語について解説します。さらに、財務レバレッジの効果やメリット・デメリットについても詳しく説明します。ビジネスリーダーの皆様は財務レバレッジについて大切な知識を身につけましょう。

この記事を読んでわかること
・財務レバレッジは企業が借入資金を活用して資本を増やす手法であることと、財務レバレッジの計算式(財務レバレッジ=総資本 ÷ 自己資本)
・財務レバレッジの活用によりROEの向上や節税効果、ビジネスリスク低下などの効果が得られること
・収益最大化や資金調達コストの最小化といったメリットについて
・財務リスクの増大や信用リスクの増加といったデメリットと、適切なレバレッジの維持や財務リスクへの対策の大切さ

財務レバレッジとは?

財務レバレッジとは?


財務レバレッジとは、企業が借入資金を活用して自己資本に比べて多くの資本を運用することを指します。つまり、財務レバレッジは、借入資金を使って資本を拡大し、その運用によって収益を最大化する手法です。

財務レバレッジの定義

財務レバレッジの定義は、企業の借入資金や他人資本を含む総資本が、自己資本の何倍に相当するかを示した数値です。財務レバレッジは、企業の資本構造と借入比率を反映しており、その数値が高いほど、企業が借入資金を多く活用していることを意味します。

財務レバレッジの計算方法

財務レバレッジの計算式は以下の通りです。単位は「倍」です。

財務レバレッジ(倍)= 総資本(円) ÷ 自己資本(円)
※総資本とは、自己資本+他人資本のことです。

例えば、ある企業の自己資本が5,000万円で、総資本が2億円の場合、

財務レバレッジ(倍) = 2億円 / 5,000万円  = 4

この場合、財務レバレッジの倍率は4となります。総資本が自己資本の4倍であることを示しています。つまり、企業の総資本のうち、自己資本が1/4(25%)を占めているということです。
財務レバレッジの倍率が高い場合、自己資本に対する他人資本(例:借入金や社債)の比率が高いことを意味します。逆に、倍率が低い場合は、自己資本比率が高いことを示し、他人資本からの依存度が低いと言えます。

財務レバレッジは自己資本比率の逆数

財務レバレッジは自己資本比率の逆数であり、企業の負債の比率や他人資本の依存度を示す重要な指標です。
例えば、自己資本比率が40%の場合、財務レバレッジは2.5となります。財務レバレッジが大きいほど、自己資本比率が低く、企業の負債の比率や他人資本の依存度が高いことを意味します。
逆に、財務レバレッジが小さいほど、自己資本比率が高く、企業の負債の比率や他人資本の依存度が低いことを示します。このように、財務レバレッジは企業の財務状態を理解する上で重要な指標です。

財務レバレッジを利かせる」の意味

「財務レバレッジを利かせる」という言葉の意味は、「金融機関からの借り入れを活用して多くの資金調達をし、総資本を増やして積極的に投資を行い収益を高めていくこと」です。企業の経営会議では、「財務レバレッジを利かせて営業活動を拡大しましょう」という表現が用いられることがあります。

財務レバレッジから経営状態をどう判断する?

財務レバレッジから経営状態をどう判断する?


企業の経営状態について財務レバレッジを基に判断する場合、財務レバレッジの目安は業種や市場環境によって異なります。一般的には、適正な財務レバレッジは業界標準や競合他社のレベルと比較します。
競合他社と比較して財務レバレッジが高い場合は資金の効率性が高いと言えますが、逆に低い場合は資金の活用が効果的ではない可能性があります。

財務レバレッジの分析方法

財務レバレッジ分析は個別の企業の事情や戦略に合わせて判断します。ここでは一般的な分析方法について説明します。

財務レバレッジが低い場合の自己資本の判断方法
財務レバレッジが低いということは、企業の自己資本比率が高いことを示します。自己資本比率が高い場合、企業は他人資本に依存せずに経営している傾向があります。この場合、自己資本比率の高さから資金の安定性や経営の安定性を評価することができます。
ただし、業界の標準や競合他社のレベルとの比較、他の財務指標との総合的な分析も必要です。財務レバレッジが低いからといって必ずしも優良であるわけではないため、他の要素も総合的に考慮する必要があります。

財務レバレッジが高い場合の状況の解説
財務レバレッジが高い場合は、2つの状況が考えられます。

1. 成長を目指している企業:資金調達を活用して事業拡大や新規投資を行っている可能性があります。
2. 借金経営が常態化している企業:非常に高い財務レバレッジは、借金経営が継続していることを示しています。適切なリスクの管理が必要です。

財務レバレッジが高い場合には、資金の効率性や成長戦略の実現に注目する一方で、財務リスクや返済能力に注意が必要なので、財務レバレッジだけでなく他の財務指標や業界の動向も考慮しましょう。

財務レバレッジの適正値

一般的には財務レバレッジが2倍を超えないことが優良企業の条件とされています。財務レバレッジが2倍以下であることは、他人資本に過度に依存せず、自己資本を適度に活用していることを意味します。
これにより、財務リスクを抑えながら企業の安定性や持続可能性を高めることができます。しかし、業種や経営形態によって適正値は異なる場合があります。

財務レバレッジの業種別平均値

財務レバレッジは2倍以下が一般的に適正値とされていますが、各企業の具体的な状況や戦略に合わせて適正な財務レバレッジを判断することが重要です。
例えば公益事業のような業界で安定したキャッシュフローを持つ企業では、負債比率を低く保つことが一般的です。
一方、成長を重視するベンチャー企業では、財務レバレッジを高めることで成長資金を確保することが戦略的な選択とされることがあります。業界のベンチマークの一つとして各業種の平均値を参考にすることは重要です。

建設業 2.323倍
製造業 2.257倍
情報通信業 1.755倍
運輸業・郵便業 2.952倍
卸売業 2.524倍
小売業 2.729倍
不動産業・物品賃貸業 2.843倍
学術研究・専門・技術サービス業 1.86倍
宿泊業・飲食サービス業 7.177倍
生活関連サービス業・娯楽業 2.651倍
サービス業(他に分類されないもの) 2.787倍
参照:中小企業実態基本調査e-stat

平均値を見ると、業種によって財務レバレッジにはばらつきがあることが明らかです。また、同じ業種内でも企業が直面する状況や採用する戦略によって、適正な財務レバレッジにはさらなるばらつきが生じます。

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財務レバレッジを利かせるメリット

財務レバレッジを利かせるメリット


財務レバレッジを利かせることによるメリットとして、財務レバレッジ効果、財務レバレッジによるROE向上、そしてレバレッジ経営の効果があります。

自己資本利益率(ROE)が上昇する

財務レバレッジを利用することによる主なメリットの一つが、自己資本利益率(ROE)の向上です。ROEは企業が自己資本に対してどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標です。ROEの計算式は次の通りです。

ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本

ROEは売上高利益率、総資本回転率、財務レバレッジの3つの要素から構成されます。

・売上高利益率(売上高経常利益率): 売上高利益率は企業が売上高からどれだけ利益を上げているかを示す指標です。高い売上高利益率は、収益性の高さを表します。
・総資本回転率: 総資本回転率は企業が総資本(負債+純資産)をどれだけ効率的に活用して売上高を生み出しているかを示す指標です。高い総資本回転率は、資本の効率的な活用を意味します。

ROEは売上高利益率 × 総資本回転率 × 財務レバレッジという計算式でも求めることができます。

資金投入によって事業拡大ができる

財務レバレッジを利用することによる設備投資は事業規模を拡大できるチャンスとなります。
追加資金を調達して設備を拡充し、生産能力を向上させることで、生産効率や製品品質の改善が可能となり競争力が強化されます。また、研究開発や技術革新にも積極的に取り組め、新製品や先進技術の導入が実現します。さらに、新たな市場への進出や事業領域の拡大も可能で、収益の多角化や市場リスクの分散につながります。
設備投資による財務レバレッジの活用は、自己資本だけではできなかった箇所に資金を投入できるようになり、企業の競争力強化と市場シェア拡大につながります。

節税効果が高まる

負債で資金を調達することで支払利息が発生します。法人税法上では、支払った利息は損金として認められます。その結果、企業の課税所得が減少し、節税効果が得られます。
例えば、ある企業が新しいプロジェクトを実施するために資金を必要としています。この企業は自己資本だけでは十分な資金を捻出することができません。
そこで、銀行からの借入を活用し、必要な資金を補うことにします。借入金額を1億円、年間の利息費用が500万円だとします。この場合、500万円は企業の損金として認められるため、企業の課税所得は500万円減少します。もし企業の法人税率が30%であれば、150万円の節税効果が得られることになります。
以上のように、財務レバレッジを活用することによって、支払利息が損金として認められ、企業の税務上の負担が軽減されるため、節税効果が得られます。ただし、利息の負担が増えるコストはリスクになります。

財務レバレッジを利かせるデメリット

財務レバレッジを利かせるデメリット


財務レバレッジを利かせると、負債が増えるので企業にとっては当然デメリットもあります。負債の健全性や返済能力の確保、金利リスクへの対策を考える必要があり、適切なリスク管理や財務計画の策定が求められます。

財務リスクが高まる

財務レバレッジを利かせると、負債比率の増加というデメリットも存在します。負債比率が高くなると、企業が元本と利息を支払う負担が増えることになり、場合によっては返済できなくなることも考えられます。
返済不能になると、企業の財務安定性や信用力に悪影響を及ぼす可能性があります。債務不履行や倒産に至ることも。また、負債比率が過度に高くなると、金融機関からの融資条件が厳しくなることもあります。
したがって、財務レバレッジを利かせる決断をする場合、負債比率の増加に伴うリスクを適切に管理する必要があります。返済能力の確保やキャッシュフローの健全性の維持が重要です。財務計画の策定やリスク管理策の導入により、負債比率が適切な範囲内に収まるように努めることが求められます。

景気の変動に弱い

財務レバレッジを利かせると、企業が景気の変動に神経質になるというデメリットがあります。具体的には、景気が悪化すると企業の利益が急激に減少することがあります。こういった情勢下においても財務レバレッジを活用している企業は、負債の元本と利息の支払いが継続的に必要となるため、返済の負担が増えます。
景気悪化による利益の急降下は、企業のキャッシュフローや収益に大きな影響を与えます。特に負債比率が高い企業は、資金を確保できなくなる可能性が高まり、深刻な問題を抱え、長引けば倒産リスクも増加します。
対策としては、景気の悪化を想定しておくことと、予備資金の準備を行うことです。また、負債の返済スケジュールの見直しや金利リスクのヘッジなど、リスク対策には専門家の助言を受けながら常に注意を払いましょう。

決算書の信頼性がさらに厳しく求められる

金融機関は企業の財務状況や返済能力を評価し、融資の承認を決定します。負債比率が高い企業は返済リスクがあると金融機関はより慎重な審査を行う傾向があります。そのため、正確で信頼性のある決算書の提供が重要です。
したがって、負債比率が高くなる場合は、決算書の正確性や透明性を確保するための内部統制の強化や、独立した監査人による監査の実施など、信頼性の向上に取り組む必要があります。決算書の信頼性は企業の財務状態の評価において重要な要素であり、金融機関との関係や資金調達の成功にも大きく影響します。

おわりに

経営者は企業の舵を握る責任を担っています。そのためには、幅広い知識や洞察力が必要です。財務レバレッジの計算式は会社を成長させるための可能性を探る知識の一つとなります。しかし、会社はやみくもに成長できれば良いというものではありません。
財務レバレッジなどの財務指標に振り回されるのではなく、使いこなせるようになりましょう。そのために、経験や直感、専門家のアドバイス、自らの研究などと合わせて経営判断していくことが大切です。未来は不確かなので100点満点の経営判断はできませんが、経営者の決断力がステークホルダー(関係者)の幸せを担っています。

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