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減価償却のメリットや計算方法、簿記について徹底解説!
減価償却とは簡単にいうと何?
減価償却とは、使用できる期間が限られている固定資産(=減価償却資産)の購入費用を、購入年度に全額を計上するのではなく、使用可能期間にわたって分割して計上していくことです。分割して計上し、経費と売上を対応させることで、損益に経営状態を適正に反映することができます。
減価償却の計算方法には「定額法」と「定率法」があり、減価償却資産の種別ごとにどちらを用いるかが決められています。減価償却資産の使用可能期間は、税法上は「法定耐用年数」として資産の品目ごとに細かく定められています。
減価償却を行う資産は、使用可能期間が限られている建物や車、パソコンなどです。土地や借地権、電話加入権、美術品、骨董品など、時間が経過しても劣化しない固定資産については、減価償却は行いません。
減価償却を行うメリット
減価償却を行うメリットは、以下の3つです。
1. 損益に経営状態を適正に反映できる
2. 節税効果がある
3. 自己金融機能がある
1. 損益に経営状態を適正に反映
減価償却を行うと、損益に経営状態を適正に反映できます。
たとえば年間500個の商品を販売した場合、損益に計上されるのは、売上も売上原価も500個の商品についてのみです。在庫が余っていても、それは損益には計上されません。このように、経費と売上を対応させることが会計の大原則となっています。
この商品を生産するための設備を購入した場合を考えてみましょう。生産設備を購入した年度に購入価格の全額を経費として計上すれば、その年度の利益は大きく圧迫され、赤字になることもあるかもしれません。赤字になれば、銀行からお金を借りられなくなる場合もあるでしょう。
赤字になったとして、その赤字は経営状態を適正に反映していると言えるでしょうか。生産設備は、その後何年にもわたって売上を上げるために使用されるものであり、生産設備を購入したために赤字になっても、それは経営状態が悪化したからではないことは明らかです。
そこで減価償却を行って、生産設備の購入費用をその後の各年度に分割して計上していくことで、それぞれの年度の売上と対応させていきます。減価償却を行えば、設備を購入した年度だけが赤字になることはなく、経費と売上が対応することで、損益に経営状態を適正に反映することができます。
2. 節税効果がある
減価償却には、節税効果もあります。減価償却を行わないと、減価償却資産を購入した年度については利益が圧迫されますが、翌年以降は利益が増えてしまうため、税金を余分に支払わなければなりません。減価償却を行って経費を分割して計上していくことで、税金を抑えることができます。
3. 自己金融機能がある
減価償却には、自己金融機能があります。自己金融機能とは、内部に留保された自己資金によって資金調達をすることです。減価償却費として計上される経費は、実際の支出を伴わないため、減価償却費は企業内部にそのまま残り、課税されることもありません。
ただし、この自己金融機能は会計上の考え方に過ぎず、同額の資金が必ずしも内部にあるわけではないので注意が必要です。
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減価償却で必要となる概念
減価償却を計算するにあたって必要となる概念は、
・取得価額
・耐用年数
の2点です。
1.取得価額
取得価額とは、減価償却資産の購入するためにかかった費用のことです。この取得価額には、購入費用のほか、引取運賃や荷役費、運送保険料、購入手数料、関税などを含めることができます。
2.耐用年数
耐用年数とは、減価償却資産を使用できる年数のことです。使用できる年数は、使用や保守・管理の状況などにより、同じものでも変わってきます。しかし、それらを個別に判定することはできないので、税制上は減価償却資産の品目ごとに「法定耐用年数」が細かく定められています。
参照:「減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一~第六」
法定耐用年数の概略は、以下の表のようになります。
種類 | 例 | 耐用年数 |
---|---|---|
建物 | 鉄筋コンクリートや木造、れんが造、金属造など | 11~50年 |
建物附属設備 | アーケードや電気設備、給排水、ガス設備など | 3~15年 |
車両・運搬具 | 自動車、2輪車、自転車など | 2~6年 |
工具 | 測定工具や検査工具、切削工具など | 2~8年 |
器具・備品 | 事務机・椅子、キャビネット、応接セット、パソコン、電話、看板、金庫など | 2~20年 |
機械・装置 | 農業用・各種製品製造用・卸売業用・小売業用設備など | 3~17年 |
構築物 | 棚や塀など | 5~17年 |
生物 | 牛や馬、リンゴやぶどうなど | 3~36年 |
減価償却の計算方法は定額法と定率法
減価償却の計算方法には、「定額法」と「定率法」があります。どちらを用いるかは、所得税か法人税か、また減価償却資産の種類によって、以下の表のように定められています。
資産の種類 | 所得税 | 法人税 | ||
---|---|---|---|---|
法定償却方法 | 選択 | 法定償却方法 | 選択 | |
建物 | 定額法 |
✕ | 定額法 |
✕ |
建物附属設備 | ✕ | ✕ | ||
構築物 | ✕ | ✕ | ||
機械装置 | 定率法 |
定率法 |
定額法 |
|
車両運搬具 | ||||
器具備品 | ||||
ソフトウェア | ✕ | 定額法 | ✕ |
所得税の申告において、減価償却の計算方法は「原則として定額法」とされています。ただし、機械装置、車両運搬具、器具備品については、あらかじめ税務署に届け出ることで定率法を選ぶこともできます。
法人税の申告において、機械装置、車両運搬具、器具備品については定率法、その他は定額法とされています。こちらも定率法のものについては、定額法を選択することもできます。
定額法と定率法の計算方法の概要は、それぞれ以下のとおりです。
定額法の計算方法
定額法とは、毎年決まった金額の減価償却費を計上していく方法です。減価償却費は、取得価額を法定耐用年数で割ったものとして計算されます。
減価償却費(定額法)= 取得価額 / 法定耐用年数
「1/法定耐用年数」は、減価償却の1年ごとの割合である「償却率」を意味するため、定額法の減価償却費は、
減価償却費(定額法)= 取得価額 × 償却率(定額法)
と表すこともできます。
定額法のメリットは計算法がシンプルであり、また毎年同じ金額を減価償却していくためわかりやすいことです。ただし、「定率法」のほうが減価償却費を早期に多く計上できるため、節税効果は高いです。
定率法の計算方法
定額法が「同じ金額ずつ」減価償却費を毎年計上していくのに対し、定率法は「同じ割合ずつ」減価償却費を計上していく方法です。計算方法は定額法より複雑ですが、早期に多くの費用を計上することができるため、節税効果が高いことがメリットです。
定率法での減価償却費は、期首における「未償却残高」に「定率法償却率」をかけたものです。
減価償却費(定率法)= 未償却残高 × 定率法償却率
「未償却残高」とは、取得価額のうち減価償却をまだ行っていない残高のことです。初年度においては、未償却残高は取得価額と同じになります。
「定率法償却率」は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第十」において、法定耐用年数ごとに決められています。
参考:「減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第十」
減価償却の簿記
減価償却の簿記を見てみましょう。耐用年数10年の固定資産を100万円で購入し、毎年10万円ずつ減価償却していくとします。
まず、固定資産を購入した際に、購入した固定資産を資産として計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
固定資産 | 1,000,000 | 現金 | 1,000,000 |
次に、毎期末に減価償却費を計上していきます。減価償却費は経費として計上し、固定資産の価値がその分下がっていくことになるために、以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 100,000 | 固定資産 | 100,000 |
上の仕訳を10年間にわたって続けていくことになるわけですが、10年目は、減価償却できる金額が変わります。減価償却は「1円」を残して行うこととされているからです。したがって、仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 99,999 | 固定資産 | 99,999 |
残った1円は「残存簿価」あるいは「備忘価額」と呼ばれ、固定資産が残っていることを帳簿に残すためのものです。残存簿価がなくなるのは、固定資産を売却あるいは廃棄した時です。
減価償却の特例
減価償却は、以下のケースにおいては行わない、あるいは簡便な方法で行うことが認められています。
1. 使用可能期間が1年未満、あるいは取得価額が10万円未満の資産については減価償却を行わず、購入した年度に一括して費用計上することが認められる。
2. 取得価額が10万円以上20万円未満の資産については、複数の資産を一括し、その合計額を3分の1ずつ、3年にわたって減価償却することが認められる。
3. 一定の条件を満たす青色申告者は、取得価額が10万円以上30万円未満の資産について、300万円までを限度としてすべてを一括し、購入した年度に費用計上することが認められる。
減価償却はしっかりと計算しよう
一見わかりにくい減価償却ですが、実は経営の状態を会計に適正に反映でき、節税効果もあるなど、大きなメリットがあります。会計ソフトを利用すれば、自分で計算することもさほど難しくありません。
会計は、事業を行っていくうえで、なくてはならないものです。
しっかり減価償却を行って、適正な会計を実践しましょう。
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