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繰延資産とは?固定資産との違いや償却方法・仕訳方法について解説
ただし、すべての費用を繰延資産にできるわけではないため、まずはどういった経費を繰延資産にできるのかを知っておきましょう。
この記事を読んでわかること
・どういったものが繰延資産として資産計上できるのか、その種類と償却期間を理解できる
・繰延資産を活用することで、利益のコントロールがある程度可能
繰延資産とは?
繰延資産とは企業や個人事業主が支出した費用のうち、支出の効果が1年以上に及ぶ商品やサービスを資産として処理するものを指します。
通常は支出した時に経費の計上を行いますが、長年使えるようなサービスや商品も同じように経費処理をしてしまうと会計上そぐわないケースがあります。長期的に使えるようなものは繰延資産として異なる扱いをします。どういったサービスや商品が繰延資産に該当するのかわかりやすく解説します。
繰延資産の条件
繰延資産の条件としては、経費計上になるもので長期間にわたって効果を生み出し続ける可能性があるものを指します。
たとえば開業費用や開発費用などが該当します。本来は開業費用や開発費用は経費になりますが、将来にわたって効果があるため、まとめて経費にするのではなく、一時的に貸借対照表の資産と計上して処理することが認められています。
貸借対照表の中には似た方法として減価償却があります。減価償却の場合には耐用年数に応じて資産価値を減少させる必要があります。繰延資産は減価償却の対象にはなりませんが、資産計上したタイミングをみて経費に振り替えるという意味では減価償却資産と似た扱いになります
流動資産・固定資産との違い
貸借対照表の資産の部には次の3つに分類されます。
・流動資産
・固定資産
・繰延資産
流動資産は1年以内に現金化できる資産を言います。たとえば預金や有価証券、受取手形、棚卸資産が流動資産に分類されます。固定資産は、長期保有が前提で、1年以内に現金化できない資産を言います。土地や建物、車などが固定資産に分類されます。
繰延資産は流動資産や固定資産に分類できないものを言います。また本来費用とすべきものを一旦資産に計上する点も流動資産と固定資産と異なる点です。
繰延資産の償却方法
繰延資産の償却方法としては均等償却と任意償却(一時償却)の2種類あります。均等償却は定められた償却期間で均等に費用を按分して、毎回同額を費用として計上します。
任意償却(一時償却)は償却期間中であればいつでも定められた範囲内の金額であれば自由に償却ができます。どちらの償却方法を選択するかによってその年に計上できる費用が大きく変わるため、その年の売上状況を加味したうえで判断するとよいでしょう。
繰延資産の種類と具体例
繰延資産には会計上繰延資産として扱うものと税法上繰延資産として扱うものがあります。会計上の繰延資産は「繰延資産の会計処理に関する当面の取り扱い」と「中小企業の会計に関する指針」で定められているものです。税務上の繰延資産は税法上定められているものです。それぞれどういったものがあるのかその種類と具体例をみていきます。
会計上の繰延資産
会計上の繰延資産として扱うものとしては、以下の5つがあります。
・創立費
・開業費
・株式交付費
・社債発行費
・開発費
それぞれどういったものが該当するのか具体的にみていきましょう。
・創立費
創立費は会社設立に伴う支出の費用です。会社設立には法人登記が必要になるため、登記するためにかかった登録免許税や定款作成費用、事務所の契約費用に創立総会に関する費用といったものが創立費にあたります。
・開業費
開業費は主に個人事業主の方が事業を始める前にかかった支出の費用です。もしくは会社が設立されてから実際に事業を開始するまでにかかった支出も開業費扱いにできます。開業費には土地や建物の賃借料、開業前に発生した宣伝広告費、名刺作成費、旅費交通費、接待交際費などがあたります。
・株式交付費
株式交付費は新株発行や自己株式の処分にかかった費用で、株式に関連する費用を指します。株式募集のための広告費や、証券会社といった金融機関に支払った取扱手数料、変更登記の登録免許税といったものも株式交付費用として計上ができます。
・社債発行費
株式に似たもので社債があります。社債発行費用としては社債を発行するに伴って発生した支出や新株予約権を発行するための支出があります。社債募集のための広告費や、証券会社といった金融機関に支払った取扱手数料、目論見書や社債債券の印刷費用が社債発行費に該当します。
・開発費
開発費は新技術の開発や新しい市場開拓等にかかった費用です。ただし、毎年継続して発生するような経常的支出は開発費での計上ができません。新技術開発のための費用や、新規市場開拓に要した費用、それに伴う経営組織の刷新に必要な費用を開発費として処理できます。
税務上の繰延資産
税法上で繰延資産としての処理が認められているものとしては、公共的施設の負担金、役務提供の権利金、広告宣伝のための資産を贈与したことによる費用、それ以外で支出の効果が1年以上に及ぶものの費用があります。それぞれの繰延資産について詳しく解説していきます。
・公共的施設の負担金
公共的施設とは、自社が直接的もしくは間接的に便益を受ける施設のことを言います。このような施設を設置や、改良をした時に発生した費用が公共的施設の負担金になります。例えば自社がある商店街にアーケードやベンチを設置するためにかかった費用等が公共的施設の負担金に該当します。
それ以外にも自己の必要に基づいて行う道路や堤防、護岸、その他の施設または工作物の設置または改良のために支出した費用も公共的施設の負担金にできます。
・役務提供の権利金
役務提供の権利金は企業経営に必要な情報を得るために要した費用を言います。具体的にはフランチャイズ経営にかかる加盟金やノウハウを得るためにかかった提供料などが役務提供の権利金にあたります。
・広告宣伝用の資産を贈与したことによる費用
広告宣伝用の資産とは、看板の設置等を言います。自社で設置する看板等は広告宣伝用のための資産の贈与にあたりませんが、法人が特約店等に対して自己の製品や看板、ネオンサイン、陳列棚等を贈与した場合には繰延資産として計上ができます。
・資産(建物)を賃借する権利金
資産を貸借する権利金も繰延資産の対象です。例えば権利金や立退料、仲介手数料などが資産を貸借する権利金にあたります。敷金や保証金は権利金には該当しないため、注意しましょう。
・その他支出の効果が1年以上あるもの
その他に繰延資産にできるものとして、支出効果が1年以上あるものは繰延資産の対象です。具体的にはスキー場のゲレンデ整備費用や出版権の設定対価、プロスポーツ選手等との専属契約をするための契約金といった支出が該当します。
繰延資産の償却期間は?
繰延資産の償却期間は会計法上の繰延資産と税法上の繰延資産によって異なります。また会計法上の繰延資産の場合には均等償却と任意償却(一時償却)の2種類あります。どちらを選択するかによって、その年に経費として計上できる金額が大きく変わり、税金計算も変わります。
会計上の繰延資産の場合
会計上の繰延資産の場合には、均等償却もしくは任意償却(一時償却)のいずれかを選択します。均等償却に関しては、定められた期間で費用を按分して計上をしていきます。
会計上の繰延資産を均等償却する場合の償却期間は創立費や開業費、開発費は5年償却、株式交付費は3年償却、社債発行費は社債の償還期限内とされています。任意償却の場合には、好きなタイミングで好きな分だけ費用として計上ができます。
税法上の繰延資産の場合
税法上の繰延資産の場合には償却期間が複雑になっています。例えば公共的施設の設置又は改良のための支出する費用はその施設又は工作物の耐用年数の7/10に相当する年数とされています。
建物を賃借するために支出する権利金等は建物の耐用年数の7/10に相当する年数を基本として、場合によっては5年とするケースもあります。
役務提供の権利金は5年とされ、宣伝広告用の資産を贈与した場合の費用はその資産の耐用年数の7/10に相当する年数で5年を超える場合には5年とされています。支出の効果が1年以上にわたる場合の繰延資産に関しては、契約期間を償却期間として、期間の定めがない場合には3年もしくは5年にすることもあります。
このように税法上の繰延資産の場合には各繰延資産の種類によって償却期間も違ってきます。また耐用年数を基準にして按分計算が必要になってくるため、会計上の繰延資産の償却期間よりも計算が複雑になっています。
それぞれの繰延資産の償却期間の計算方法は国税庁のホームページに掲載がされています。ホームページを確認して計算するか、もしくは税理士といった専門家に相談の上、償却期間の確認をしましょう。
繰延資産の会計方法
繰延資産が発生した時の会計処理はどのようになるのでしょうか。繰延資産の計上の仕方と償却時の会計処理について具体的にみていきます。
繰延資産の勘定項目
繰延資産の仕訳に使用する勘定科目は、貸借対照表と損益計算書で使用する勘定科目が異なるため注意しましょう。また会計上の繰延資産と税法上の繰延資産によっても使用する勘定科目が異なります。詳しくは下記の表を参考にしてください。
貸借対照表での勘定科目 | 損益計算書での勘定科目 | |
---|---|---|
会計上の繰延資産 | 繰延資産 | 繰延資産償却 ※開発費は販管費、その他は営業外費用も適用可 |
税法上の繰延資産 | 長期前払費用 | 長期前払費用償却 ※減価償却費も適用可 |
繰延資産の仕訳例【パターン1.均等償却】
均等償却をする場合には、仕訳をする前にその年に計上すべき償却費を計算する必要があります。償却費は以下の式で計算されます。
繰延資産の支出総額÷償却期間の年数×本年中の償却期間の月数÷12ヵ月 |
注意点としては、期中で発生している場合の月案分の計算を忘れずに行う必要があることです。例えば7月に事業を開業して120万円の開業費が現金で発生した場合の仕訳は下記のようになります。
これを帳簿に仕訳するとしたら下記の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
開業費 | 120万円 | 現金 | 120万円 |
そして期末に開業費を均等償却する場合の計算式は、(120万円÷5年)×(5か月÷12ヵ月)で計算され、10万円となります。
これを帳簿に仕訳するとしたら下記の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
繰延資産償却 | 10万円 | 開業費 | 10万円 |
繰延資産の仕訳例【パターン2.任意償却】
次に任意償却をする場合の仕訳についてみていきます。任意償却に関しては仕訳をする前にその年にいくら償却するのかの金額を決める必要があります。
金額を決めたらその分を繰延資産償却として計上をします。例えば前述の例で開業費の一部である40万円をその年に任意償却すると決めたら40万円を繰延償却資産として計上します。仕訳にすると下記の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
繰延資産償却 | 40万円 | 開業費 | 40万円 |
繰延資産を活用するには
繰延資産は経営の状況に合わせて償却方法が選択できます。売上が多い時には繰延資産の償却費を増やすことで経費を増やしたり、売上が少ない時には繰延資産の償却は行わずに償却費を抑えて経費を減らしたりといったコントロールができます。
特に個人事業主が開業した時や会社を設立したばかりの時は売上があまりなく、赤字になってしまうケースが多いです。その時に開業費や創立費といった繰延資産を活用しましょう。
また償却方法についてもよく考えた上で会計処理を行う必要があります。償却方法が均等償却しかできないものもあれば、任意償却(一時償却)できるものもあります。
任意償却(一時償却)は一回で多額の償却費を計上できるため、その効果も大きくなります。任意償却(一時償却)できる繰延資産は、できれば売上が多い時にまとめて償却費を計上した方が税金面も有利になります。
ただし償却可能期間には期限があるため、いつか償却しようと思って、使い忘れてしまい、結局あまり売上がない時に償却するといったことがないように注意が必要です。
おわりに
今回は繰延資産の種類と償却方法について、具体的な仕訳方法を踏まえながら紹介しました。繰延資産は活用次第で利益コントロールができる数少ない手段です。活用することで事業経営に与える影響も大きくなります。
ただしすべての費用を繰延資産にできるわけではありません。繰延資産に計上した方が有利だからと言って誤った処理をしないようにしましょう。
繰延資産は会計上と税務上があり、判断が難しいものもあります。判断に迷ったときには税理士への確認や税務署への問い合わせをするなどして相談したうえで行いましょう。