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「復興特別所得税」とは?税額や計算方法を解説
(参考:個人の方に係る復興特別所得税のあらまし 国税庁)
復興特別所得税とは?
「復興特別所得税」は、復興のために必要な財源の確保を目的として徴収されている税金です。平成23年(2011年)12月2日に公布された「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」に基づいて、平成25年(2013年)から課税されています。
復興特別所得税の使途は、復興庁によれば、1.被災者支援、2.産業・生業(なりわい)の再生、3.住宅再建・復興まちづくり、4.原子力災害からの復興・再生となっています。
復興特別所得税は誰が支払う?
復興特別所得税の対象者は、所得税を納める義務がある個人です。所得税の納税義務者とは、日本国内に居住している人のうち日本国籍保持者か、過去10年間のうち5年以上国内に住所または居所があった人のことを指します。
国民として、納税によって復興に協力することは当然の責務です。しかしながら、こんな税金があること自体、全く意識してこなかったというビジネスパーソンも多いでしょう。復興特別所得税は自分で稼いだお金から納めるものであるため、納税額や課税期限については一定の知識を持っておくことをおすすめします。
復興特別所得税はいくら支払う?計算方法を確認
それでは、復興特別所得税額はどのように算出すれば良いのでしょうか。計算式は以下のとおりです。
復興特別所得税額 = 基準所得税額 × 2.1%
ただし、その年分の所得税において外国税額控除の適用がある居住者のうち、控除対象外国所得税額が所得税の控除限度額を超える場合は、超過した金額をその年分の復興特別所得税額から控除することができます。控除の限度額については、その年分の復興特別所得税額のうち国外所得に対応する部分に限られている点も覚えておくとよいでしょう。
基準所得税額とは?
復興特別所得税額を求めるときに使用した式からもわかるように、復興特別所得税の課税標準は、その年分の「基準所得税額」となっています。
基準所得税額は、納税義務者の区分によって以下のように異なります。
区分 | 基準所得税額 | |
---|---|---|
居住者 (国内に住所があるか、1年以上住んでいる人) |
非永住者以外(日本国籍があるか、過去10年のうち5年を超える期間は住所があった人) | 全ての所得に対する所得税額 |
非永住者(日本国籍がなく、過去10年のうち住所があった期間の合計が5年以下の人) | 国内源泉所得及び国外源泉所得のうち国内払のもの又は国内に送金されたものに対する所得税額 | |
非居住者(1年未満の短期滞在を予定している人) | 国内源泉所得に対する所得税額 |
復興特別所得税はいつ支払う?
復興特別所得税を支払う対象期間は、平成25年(2013年)から令和19年(2037年)までの各年です。
支払いのタイミングは、給与を受け取っているか、自分で事業を行っているかによって異なりますが、いずれにしても所得税と同様に支払うことになっています。経営者であれば、自身の復興特別所得税の支払いについてだけでなく、従業員における復興特別所得税の源泉徴収・納付についても義務を負っているため、注意が必要です。
給与を受け取っている人は源泉徴収
会社員など給与を受け取っている被雇用者は、所得税と一緒に復興特別所得税も源泉徴収される。給与等から源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税の合計額は、「源泉徴収税額表」(復興特別所得税を加算した新しい税額表)に当てはめて算出し、徴収したうえで、1枚の所得税徴収高計算書(納付書)で納付します。
なお、年末調整も所得税と併せて行います。
事業主は確定申告期限内に納付
個人事業主は、平成25年(2013年)から令和19年(2037年)までの各年分の確定申告については、所得税と復興特別所得税を併せて申告する必要があります。そのうえで、申告書の提出期限までに、申告書に記載した納付すべき所得税及び復興特別所得税の合計額を納付することになっています。
個人事業主の所得税は、確定申告期間内に納めなければなりません。復興特別所得税についても同様です。確定申告期間は、概ね毎年2月15日から3月15日の間です。この期限までに所得税、復興特別所得税を納付できるよう、しっかりと準備しておく必要があります。
復興特別所得税の予定納税とは?
国税庁のホームページには、「平成25年(2013年)から令和19年(2037年)までの各年分において、予定納税基準額が15万円以上である場合は、所得税及び復興特別所得税の予定納税をする」とあります。
予定納税とは、その年の5月15日において確定している前年分の所得金額や税額などをもとに計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上である場合には、その年の所得税及び復興特別所得税の一部をあらかじめ納付するという制度です。予定納税額は、所得税及び復興特別所得税の合計額で基準額が計算されます。
予定納税をするかどうかは自分で選べるものではなく、税務署から連絡を受けた人全員が予定納税を行う義務を持つという強制的なものなので注意しましょう。予定納税は、予定納税基準額の3分の1の金額を、第1期分として7月1日から7月31日までに、第2期分として11月1日から11月30日までに納める必要があります。そのため、対象になりそうな場合は準備を忘れないようにしましょう。
復興特別所得税の還付はある?
源泉徴収された税金や予定納税をした税金が納め過ぎになっている場合には、還付を受けるための申告(還付申告)により税金が還付されます。もちろん、復興特別所得税も例外ではありません。
なお、国税庁のホームページによれば、確定申告によって税金が還付される可能性があるのは、次のような場合です。条件に当てはまる場合は、確定申告の必要がない給与所得者などであっても必ず申告しておきましょう。
1.株式の配当や原稿料などを受け取っている人
年間の所得が一定額以下である場合に税金が戻る可能性があります。
2.給与所得者で、各種控除を受けられる人
・雑損控除
・医療費控除
・寄附金控除
・(特定増改築等)住宅借入金等特別控除(年末調整で控除を受けている場合を除く)
・政党等寄附金特別控除
・認定NPO法人等寄附金特別控除
・公益社団法人等寄附金特別控除
・住宅耐震改修特別控除
・住宅特定改修特別税額控除
・認定住宅新築等特別税額控除 など
上記を受けている場合、税金が戻る可能性があります。
3.収入が公的年金のみの人
医療費控除や社会保険料控除などを受けられる場合は、税金が戻る可能性があります。
4.年の中途で退職した後に就職しなかった人
給与所得について年末調整を受けていない場合、税金が戻る可能性があります。
5.退職所得がある人
次のいずれかに該当する場合、税金が戻る可能性があるためチェックしておきましょう。
・退職所得を除く各種の所得の合計額から所得控除を差し引くと赤字になる
・退職所得の支払を受けるときに「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかったため、20.42%の税率で源泉徴収がされ、その所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額が正規の税額を超えている
復興に向けた取り組み
令和2年7月に復興庁がまとめた「復興の現状と課題」によると、復興に向けた取り組みは以下のような成果を上げています。
復興に向けた取り組みの成果
1.被災地支援
・避難者は当初の47万人から4.4万人に減少
・介護サポート拠点や相談員の見守りなどが、被災者の心身のケア・孤立防止に寄与
2.住まいとまちの復興
・自主再建:約15.2万件が再建済みまたは再建中
・高台移転による宅地造成:計画戸数約1万8千戸は、2020年度に全て完成見込み
・災害公営住宅:計画戸数約3万戸は、調整中及び原発避難からの帰還者向けを除いて、2020年度に全て完成見込み
3.産業・生業の再生
・生産設備はほぼ復旧し、被災3県の生産の水準もほぼ回復(農地では94%で営農再開可能、水産加工施設は97%で業務再開)
4.福島の復興・再生
・帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示解除
・福島県ふたば医療センター附属病院の開院(2018年4月)
・小中学校が10市町村において再開済
・ふたば未来学園中学校が開校(2019年4月)
・高校新規開校(ふたば未来学園高校、小高産業技術高校が開校済)
・JR常磐線全線開通(2020年3月14日)
復興に向けた取り組みの課題
一方で、以下のように課題も山積みであることから、我々の納税による財源は今後も被災地の役に立ち続けるでしょう。
1.被災地支援
・住宅再建、仮設生活の解消
・相談支援や心身のケアへの支援
・生きがいづくりのための「心の復興」
・コミュニティの形成など
2.住まいとまちの復興
・住宅再建の実務支援や自力再建の支援
・交通網の形成や物流網の整備、医療介護体制の整備など
3.産業・生業の再生
・水産加工業や農林水産業の売上回復
・被災地企業の人材確保
被災地の住民でなければあまり実感が湧かないかもしれません。しかしながら、我々の血税を財源とした復興の取り組みの結果、このような成果が出ているのだと思えば、納税の苦労も報われるのではないでしょうか。
復興特別所得税の申告は忘れずに
復興特別所得税は、通常の所得税と同じように申告し、期限内に納税する必要があります。うっかり忘れることがないようにしましょう。
もしかすると、「通常の所得税のほかに税金がとられるなんて嫌だ」と感じる方もいるかもしれません。しかしながら、通常の所得税と比べて納めた税金の使われ方が明確になっているため、「自分が納めた税金が、社会の役に立っている」と実感しやすいのが復興特別所得税です。
実際に、被災地の復興は少しずつでも進んでいます。払いすぎた場合は戻ってくる場合もあるため、個人事業主は毎年正しく申告を行うとともに、従業員がいれば正しく徴収・納付し、復興の歩みを進めることに貢献しましょう。