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決算で赤字が出てしまった場合に、法人税は発生しない?節税のポイントも解説!
法人税の種類別に見る!赤字になっても払う必要がある?
法人税等の内訳は、法人税、住民税及び事業税です。これら各種税金に対して、企業が赤字となった場合、税金が発生するのかについて解説します。
法人税と企業の赤字による税金発生有無
法人税とは、いわゆる国税であり企業における事業年度に対する所得に対して課す税金です。会計上において計上された税引前当期純利益(または損失)に対して、損金及び益金の調整を行うことで、法人税を算定する基礎となる課税所得が算定されます。
簡単に言えば、税務会計上における純利益というイメージです。この課税所得がゼロないしマイナスとなった場合においては、法人税は発生しません。
ここで注意してほしいのは、会計上において税引前当期純利益がゼロないし税引前当期純損失となっていても、課税所得を算定した結果、課税所得がプラスである場合においては法人税が発生します。安易に税引前当期純利益がゼロないし税引前当期純損失であったからといって法人税は課されないと考えないことです。
法人住民税と企業の赤字による税金発生有無
法人住民税とはいわゆる地方税であり、企業が事務所など所在している都道府県及び市町村に対し支払う税金です。均等割と法人税割の2つがあります。
均等割は、資本金などの金額により年間の税額が定められています。そのため、会計上において税引前当期純利益がゼロないし税引前当期純損失となっていても、税金が課されます。また法人税割は、法人税額を課税標準として標準税率を乗じて算定されます。
従って、課税所得をもとに法人税が算定されることから税引前当期純利益がゼロないし税引前当期純損失であったからといって当該税金が発生しないということにはならない点に留意する必要があります。
法人事業税と企業の赤字による税金発生有無
法人事業税とは、法人住民税と同様、地方税であり企業が事務所など所在している都道府県及び市町村に対し支払う税金です。ここでは一般的な企業、すなわち外形標準課税対象法人を前提として説明します。
外形標準課税の対象法人とは、所得に課税される法人で事業年度終了の日における資本金の額が1億円を超えている法人となります。
その中で、法人事業税は具体的には付加価値割、資本割、所得割があります。
付加価値割
各事業年度の付加価値額を課税標準として、税率を乗じて算定されます。付加価値額とは、各事業年度の報酬給与額、純支払利子および純支払賃借料の合計額と各事業年度の単年度損益との合計額です。
ここでいう単年度損益とは企業における会計上における税引前当期純利益ではなく、法人税における課税所得を求める際に紹介した、益金の額と損金の額との差額を指します。
資本割
各事業年度の資本金等の額を課税標準として、税率を乗じて算定されます。
所得割
各事業年度の所得を課税標準として、税率を乗じて算定されます。この点、法人税を算定する際の課税標準と同様です。
従って法人事業税のうち、付加価値割と資本割については、企業の赤字にかかわらず税金が課されます。所得割に関しては、課税所得がプラスとなる場合において税金が課されます。
上記で各種法人税の説明と、企業の赤字決算における税金の発生の有無について説明してきました。赤字決算でも法人税等は発生する可能性があります。各税金の算定基礎となる課税標準に応じて税金の発生有無が決まるため、留意してください。
企業が赤字となった場合は節税のチャンス
企業が赤字となった場合は節税のチャンスがあります。ここでいう赤字とは課税所得がマイナスの場合を指します。課税所得がマイナスとなった場合、欠損金が発生したこととなり、税務上のメリットを享受できます。具体的に以下で説明していきます。
繰越欠損金とは?
税務上のメリットとして挙げられるものとして繰越欠損金があります。繰越欠損金とは、税務上において課税所得がマイナスとなり、税務上の欠損金が生じた場合において翌年度以降、繰越期限までの間当該欠損金を繰り越せます。ここでいう繰越期限は10年間です。
翌期に税務上課税所得が発生した場合において、繰越欠損金の一定額を課税所得と相殺することで、法人税の算定基礎となる課税標準の金額を減少でき、法人税を削減できます。ここでいう一定額とは、課税所得の50%の金額を上限としています。また、繰越欠損金の損金算入の順序としては、繰越期間における古いものから順に損金算入がなされます。
この繰越欠損金の適用を受けられる税務上の欠損金は、青色申告書を提出した事業年度におけるものであることに留意が必要です。
欠損金の繰戻し還付
欠損金の繰り戻しによる還付とは、青色申告書を提出した事業年度において生じた欠損金がある
場合に、当該欠損金額を前事業年度に繰り戻して法人税額の還付を請求できるものです。
具体的な還付金額の算定方法は、前期の法人税額に対して、前期所得金額を分母として、当期欠損金額を分子として算定した割合を乗じた金額が還付として請求できる金額となります。そのため、還付請求できる金額は前期の所得金額を上限とします。
欠損金の繰り戻しによる還付を受けられる対象は、中小企業者等に該当する場合です。現在は新型コロナ税特法の特例として、令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する各事業年祖において生じた欠損金額について、中小企業者等に加えて、資本金が10億円を超えるような法人も対象となっています。
繰越欠損金をうまく利用する方法例
繰越欠損金を利用することで、節税対策が可能となります。そのため繰越欠損金が計上された場合は、翌年以降の繰越期間にわたり発生した繰越欠損金をすべて損金算入できるかが重要となります。
繰越期間中に課税所得に充当できなかった繰越欠損金のことを実務上では期限切れ欠損金と呼んでいます。こうした期限切れ欠損金が発生しないようにし節税を享受するためには、利益計画を作成しその中に繰越欠損金の充当についてシミュレーションとして組み込むことです。事前に利益計画に織り込むことで、適切に節税対策ができるでしょう。
企業の赤字における注意点
赤字が続くと派生する問題点
一般的に上場企業は、監査法人による会計監査を受けなければならないとされています。その中で企業が損益計算書上、当期純損失を計上した場合においては、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況として識別されます。
当期純損失を計上したことで、すぐに継続企業の前提に関する注記を有価証券報告書に記載しなければならないわけではありません。ただ記載が必要な可能性もあります。有価証券報告書上における継続企業の前提に関する注記は、一般的な注記ではないため、注記がなされた場合には目立ってしまいます。
赤字決算が2期以上連続で続くと継続企業の前提に関する注記の要否はより高まることに加え、第三者から見て企業の信用力も棄損しかねません。投資家はもちろんのこと、融資先の金融機関における審査においても厳しくなってきます。
以上のことから、節税対策として享受できるメリットである繰越欠損金制度はあるものの、当たり前ではありますが企業が赤字決算を発表した時における影響は大きいものとなります。
赤字決算の場合も法人税は発生する
今回は、企業が赤字になることによる法人税等の発生有無を中心に説明してきました。結論としては、赤字決算であっても法人税等は発生するということです。また税務上において欠損金が生じた場合においては繰越欠損金制度を適用することで翌年度以降における税金の節税が可能であることも頭に入れておきましょう。
※記事中の法律・税制などに関する記載は2020年7月時点のものであり、現在は法律等が改正されている場合が考えられますのでご注意ください。