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赤字の時、法人税は発生しない?赤字決算で免除される税金と節税ポイントを解説
法人が赤字になった時、これらの税金は課せられないのでしょうか。課せられるとするならばどの税金が該当するのでしょうか。
法人3税をはじめとする法人にかかる主な税金について、その種類を挙げながら、企業が赤字を計上した場合の税金発生の有無を解説していきます。赤字決算による節税のメリットや赤字が出た場合の注意点も併せてご紹介します。
法人にかかる税金の種類別・会社の赤字による税金発生の有無
法人税や法人住民税、法人事業税、消費税、源泉所得税など法人にはさまざまな税金が課せられます。企業が赤字となった場合、これらの税金の納税義務は発生するのでしょうか。税金の種類ごとに解説していきます。
「法人税」は赤字で課税所得がなければ発生しない
法人税とは、いわゆる国税であり企業における事業年度に対する所得に対して課せられる税金です。会計上において計上された税引前当期純利益(または損失)に対して、損金および益金の調整を行うことで、法人税を算定する基礎となる課税所得が算定されます。
簡単に言えば、税務会計上における純利益というイメージです。この課税所得がゼロないしマイナスとなった場合においては、法人税は発生しません。
ここで注意してほしいのは、会計上において税引前当期純利益がゼロないし税引前当期純損失となっていても、課税所得を算定した結果、課税所得がプラスである場合においては法人税が発生します。安易に税引前当期純利益がゼロないし税引前当期純損失であったからといって法人税は課されないと考えないことです。
【法人税額の計算方法】 法人税額 = 課税所得 × 税率 - 税額控除額 【課税所得の計算方法】 課税所得 = 益金(売上収入・売却収入・利益)- 損金(費用・損失) |
なお、法人税が課せられるのは、以下のとおりです。
普通法人 | 株式会社、有限会社、合資会社、医療法人、監査法人、一般社団法人(非営利型法人を除く)など |
協同組合等 | 農業協同組合、漁業協同組合、労働者協同組合など |
人格のない社団等 | PTA、同業者団体、同窓会など |
公益法人等 | 社会医療法人、公益社団法人と公益財団法人、社会福祉法人など |
普通法人や協同組合等は事業から得た所得に対して課税され、人格のない社団等や公益法人等は収益事業から得られた所得のみが課税対象です。
また税率は、以下のとおりに定められています(開始事業年度が2019年4月以降の場合)。
区分 | 適用 | 税率 |
普通法人(資本金1億円以下) | 年800万円以下の部分 | 15%(※) |
年800万円超の部分 | 23.20% | |
協働組合等 | 年800万円以下の部分 | 15% |
年800万円超の部分 | 19% |
「法人住民税」
法人住民税とはいわゆる地方税であり、行政サービスの利用に対して課せられる税金です。個人が納める住民税のようなもので、企業が事務所などの所在している都道府県および市町村に支払います。
法人住民税は、「均等割」と「法人税割」の2つがあります。
法人住民税=均等割+法人税割 |
均等割は所得にかかわらず資本金を基準に算出され、法人税割は法人税額を基準に算出されます。つまり、均等割は赤字の場合にも支払い義務が発生し、法人税割は課税所得がゼロないしマイナスとなり法人税を納めていない法人には支払い義務が発生しません。
それぞれについて、次より詳しく見ていきます。
●均等割:最低7万円赤字でも払う
均等割は、法人であれば等しく支払義務が発生する税金です。そのため、会計上において税引前当期純利益がゼロないし税引前当期純損失となっていても、税金が課されます。
年間の税額は、都道府県民税は法人の資本金等の額で、市町村民税は資本金等の額と従業者数によって定められています。
資本金等の額 | 都道府県民税均等割 | 市町村民税均等割 従業者数50人超 |
市町村民税均等割 従業者数50人以下 |
1千万円以下 | 2万円 | 12万円 | 5万円 |
1千万円超1億円以下 | 5万円 | 15万円 | 13万円 |
1億円超10億円以下 | 13万円 | 40万円 | 16万円 |
10億円超50億円以下
|
54万円 | 175万円 | 41万円 |
50億円超 | 80万円 | 300万円 | 41万円 |
上記表から、資本金等が一番少ない区分「資本金1千万円以下」で「従業員数50人以下」を計算すると下記の通りになります。赤字になったとしても7万円の均等割額を支払う必要があります。
2万円(都道府県民税均等割)+5万円(市町村民税均等割)=7万円(均等割合計) |
●法人税割:法人税の金額で変動する
法人税割は、都道府県や市町村に払う税金で、法人が国に納めた法人税額を課税標準として、標準税率を乗じて算定されます。
したがって、課税所得がゼロないしマイナスとなった場合は法人税は免除されるため、法人税割も発生しません。ただし、会計上において税引前当期純利益がゼロないし税引前当期純損失であったからといって当該税金が発生しないということにはならない点に留意する必要があります。
法人税割の税率は以下のとおりです(普通法人で資本金1億円以下、開始事業年度が2019年10月以降の場合)。
区分 | 法人税額 1,000万円以下 |
法人税額 1,000万円超 |
道府県民税 | 1.0% | 2.0% |
市町村民税 | 6.0% | 8.4% |
「法人事業税」
法人事業税は事業活動を行うにあたって、法人も利用するであろう行政サービスの維持・保持のために課せられる税金です。法人住民税と同様の地方税であり、企業が事務所などの所在している都道府県に対し支払います。
法人事業税は法人が行う事業に対して課されるもので、業種の特徴を考慮したさまざまな基準が設けられています。
ここでは一般的な企業、すなわち外形標準課税対象法人を前提として説明します。外形標準課税の対象法人とは、所得に課税される法人で事業年度終了の日における資本金の額が1億円を超えている法人です。
法人事業税には具体的に、付加価値割、資本割、所得割などがあり、外形標準課税の対象法人は、所得割だけでなく、付加価値割や資本割も課税標準となります。それぞれについて、以下に詳述します。
●付加価値割:付加価値がプラスであれば発生する
各事業年度の付加価値額を課税標準として、税率を乗じて算定されます。付加価値額とは、各事業年度の報酬給与額、純支払利子および純支払賃借料の合計額と各事業年度の単年度損益との合計額です。
付加価値割=付加価値額×税率 (付加価値額=報酬給与+純支払利子+純支払賃借料+単年度損益) |
ここでいう単年度損益とは企業における会計上における税引前当期純利益ではなく、法人税における課税所得を求める際に紹介した、益金の額と損金の額との差額を指します。
赤字決算の場合でも付加価値割が生じるケースがありますが、付加価値がマイナスであれば発生しません。
●資本割:赤字でも発生する
各事業年度の資本金等の額を課税標準として、税率を乗じて算定されます。各事業年度の資本金等の額は、各事業年度の終了の日における資本金等の額です。赤字が大きかったとしても、資本割は必ず発生します。
資本割=資本金等の額×税率 |
●所得割:赤字で課税所得がなければ発生しない
各事業年度の所得を課税標準として、税率を乗じて算定されます。この点は、法人税を算定する際の課税標準と同様です。所得割に関しては、課税所得がプラスとなる場合において税金が課されます。
所得割=所得金額×税率 |
なお、資本金が1億円以下の会社の場合は、法人事業税においては所得割のみ課税されます。赤字決算となり、課税所得がゼロないしマイナスとなった場合は所得割も免除され、法人事業税自体が発生しないことになります。
「地方法人税」赤字で法人税が課されなければ発生しない
地方法人税とは、法人が事業を行うことで得た所得に対して課される国税です。地方法人課税における税源の偏在是正を行うためのもので、国に納められた税金は、国から各自治体に「地方交付税」として交付されます。
地方法人税は、法人税額に税率10.3%を乗じて求めます。
地方法人税=法人税額×10.3% |
課税所得がゼロないしマイナスとなり、法人税が発生しない場合は、地方法人税の支払いも不要です。
なお、地方法人税は、法人税と一緒に申告し、納付します。
「特別法人事業税」赤字で法人事業税が課されなければ発生しない
特別法人事業税は、令和元年度の税制改正に伴い、地方間税収の偏在是正を目的に導入されました。法人事業税の所得割などの標準税率を引き下げることにより、法人事業税の一部を分離した国税です。
特別法人事業税額の計算式は、以下のようになります。
特別法人事業税=基準法人所得割額または基準法人収入割額の標準税率相当額×税率 |
法人事業税のうち、所得割額または収入割額の標準税率相当額に対して課せられます。赤字決算となり所得割が発生しないなどして、法人事業税が課せられない場合には、特別法人事業税も発生しません。
税率は法人の種類によって異なります。各都道府県のウェブサイトに掲載されている「税率表」にてご確認ください。また、特別法人事業税の納付は、法人事業税と併せて行います。
これまで、各種法人税の説明と、企業の赤字決算における税金の発生の有無について説明してきました。赤字決算でも法人税等は発生する可能性があります。各税金の算定基礎となる課税標準に応じて税金の発生有無が決まるため、留意してください。
次に、法人に課せられるその他の税金である、消費税や源泉所得税について解説していきます。
赤字でも発生する「消費税」「源泉所得税」などの税金
法人税等の他にも、赤字決算であったとしても納税義務が生じる税金があります。以下に挙げるのは、赤字の際にも発生する主な税金です。税負担により資金不足に陥らないためにも、会社に課せられる税金を把握しておきましょう。
種類 | 概要・課税対象 |
消費税 | 商品やサービスの購入時に課せられる税金。消費者が負担して事業者が納付する |
源泉所得税 | 給与や報酬から事前に差し引かれる税金。給与支払者が従業員に代わって納付する |
住民税(特別徴収) | 居住する地方自治体に納める税金。給与支払者が従業員の給与から差し引き、自治体に納付する |
固定資産税 | 土地、工場や倉庫などの建物、工具器具備品などの固定資産に対して課せられる税金。所有者が納付する |
自動車税 | 自動車の所有者に課せられる税金。車両の種類や排気量に基づいて算出される |
印紙税 | 契約書や領収書など特定の文書に対して課される税金。所定の印紙を貼付して納付する |
消費税は概要にも記したように、消費者が負担する税金です。事業者は消費者の代わりに納付する義務を負っています。
企業の赤字決算による3つの節税メリット
企業が赤字となった場合、次のようなメリットがあります。
・法人税の節税につながる
・赤字を繰り越し黒字と相殺可能(繰越欠損金)
・中小企業は欠損金の繰戻しによる法人税の還付を受けることができる
ここでいう赤字とは課税所得がマイナスの場合を指します。課税所得がマイナスとなった場合、欠損金が発生したこととなり、税務上のメリットを享受できるのです。3つのメリットについて、以下で具体的に説明していきます。
法人税の節税につながる
法人税は課税所得に税率をかけて算出するため、課税所得がマイナスになる赤字決算のケースでは、法人税を抑えることにつながります。
法人税は、売上が多い企業では高額になりやすいなど、法人にかかる税金の中でも税額が大きくなりやすい税金のひとつです。そのため、法人税を抑えられるという点は、赤字決算による大きな節税のメリットといえます。
ただし、法人住民税の均等割は、課税所得にかかわらず資本金を基準に算出するため、赤字であっても節税にはつながらない点に留意しましょう。
赤字を繰り越し黒字と相殺できる(繰越欠損金)
税務上のメリットとして挙げられるものに繰越欠損金があります。繰越欠損金とは、税務上において課税所得がマイナスとなり、税務上の欠損金が生じた場合において翌年度以降、繰越期限までの間当該欠損金を繰り越せます。ここでいう繰越期限は10年間です。
翌期に税務上課税所得が発生した場合において、繰越欠損金の一定額を課税所得と相殺することで、法人税の算定基礎となる課税標準の金額を減少でき、法人税を削減できます。ここでいう一定額とは、課税所得の50%の金額を上限としています。また、繰越欠損金の損金算入の順序としては、繰越期間における古いものから順に損金算入がなされます。
この繰越欠損金の適用を受けられる税務上の欠損金は、青色申告書を提出した事業年度におけるものであることに留意が必要です。
<適用条件> ・繰越欠損金は法人税法に基づくものであるため、法人であること ・赤字決算が確定していること ・赤字決算の申告が正しく、税務署に認められること ・欠損金が生じた事業年度に青色申告を期限内に行っていること など <繰越期間> 最長10年間。この期間内に生じた利益から過去の赤字を控除できる |
こうした制度内容から、現状において資金繰りに問題がなく、翌期以降に黒字が見通せる時に、赤字の繰越を選択すると良いでしょう。
●繰越欠損金をうまく利用する方法例
繰越欠損金を利用することで、節税対策が可能となります。そのため繰越欠損金が計上された場合は、翌年以降の繰越期間にわたり発生した繰越欠損金をすべて損金算入できるかが重要となります。
繰越期間中に課税所得に充当できなかった繰越欠損金のことを実務上では期限切れ欠損金と呼んでいます。こうした期限切れ欠損金が発生しないようにして節税を享受するためには、利益計画を作成し、その中に繰越欠損金の充当についてシミュレーションとして組み込むことです。事前に利益計画に織り込めば、適切に節税対策ができるでしょう。
中小企業は欠損金の繰戻しによる法人税の還付を受けることができる
欠損金の繰り戻しによる還付とは、青色申告書を提出した事業年度において生じた欠損金がある場合に、当該欠損金額を前事業年度に繰り戻して法人税額の還付を請求できるものです。
具体的な還付金額の算定方法は、前期の法人税額に対して、前期所得金額を分母として、当期欠損金額を分子として算定した割合を乗じた金額が還付として請求できる金額となります。そのため、還付請求できる金額は前期の所得金額を上限とします。
欠損金の繰り戻しによる還付を受けられる対象は、中小企業者等に該当する場合です。
<適用条件> ・青色申告書を、前事業年度から欠損事業年度まで連続して提出していること ・欠損事業年度の青色申告書を提出期限までに提出していること ・上記の確定申告書と同時に欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出すること など |
こうした制度内容から、前期において納税をしており、現状で資金繰りに問題がある場合、翌期以降も赤字が続く見込みがある場合は、欠損金の繰り戻しによる還付を受けると良いでしょう。
赤字が出た場合の注意点
金融機関の信用を失いかねない
一般的に上場企業は、監査法人による会計監査を受けなければならないとされています。その中で企業が損益計算書上、当期純損失を計上した場合においては、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況として識別されます。
当期純損失を計上したことで、すぐに継続企業の前提に関する注記を有価証券報告書に記載しなければならないわけではありません。ただ記載が必要な可能性もあります。有価証券報告書上における継続企業の前提に関する注記は、一般的な注記ではないため、注記がなされた場合には目立ってしまいます。
赤字決算が2期以上連続で続くと継続企業の前提に関する注記の要否はより高まることに加え、第三者から見て企業の信用力も棄損しかねません。
累積赤字を抱えると資金繰りが厳しくなる可能性
上記のような状況に陥れば、投資家はもちろんのこと、融資先の金融機関における審査においても厳しくなってきます。返済能力が低いと判断され、投資や融資を受けるのが難しくなり、資金繰りに問題を抱えるようになる可能性が生じるでしょう。
また、赤字決算が何年も続けば、債務が増え過ぎて、倒産する危険が高まります。さらに、本来であれば会社は資金繰りを行いながら黒字を目指して経営をしていくものであり、税務署に脱税目的の不正赤字ではないかと疑われるかもしれません。
節税対策として享受できる繰越欠損金制度というメリットなどはあるものの、当たり前ではありますが企業が赤字決算を発表した時における影響は大きいものとなります。リスクをよく理解し、節税だけにとらわれず、俯瞰的な視点を持ってバランスの良い経営を心がけましょう。
赤字決算であっても法人税が発生するケースがある
今回は、企業が赤字になることによる法人税等の発生有無を中心に説明してきました。結論としては、赤字決算であっても法人税等は発生するケースがあるということです。
税務上においては、法人税の免除や還付を受けることができたり、欠損金が生じた場合においては繰越欠損金制度を適用することで翌年度以降に節税が可能であったりすることも頭に入れておきましょう。
また一方で、一過性でない限り、赤字が事業活動にもたらす影響は大きいといえます。コスト削減や経営の効率化、売上拡大を図るなど、安定した経営を目指すことは重要です。
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