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外国税額控除とは?控除の流れや計算方法について解説
外国税額控除とは
外国税額控除の基本情報について記載します。
外国税額控除とは二重課税防止のための制度
外国税額控除とは、日本国内に居住地を置く人が外国の所得税に相当する税金を納付した場合、二重課税を調整するために設けられた制度です。
日本は、所得が生じた場所が国内でも国外でも関係なく、同じ所得と見なされて所得税が課せられます。しかし、所得を受け取った国が「源泉地課税」を採用している場合、その国でも税金を収める義務が発生して、二重に課税されることになります。このような二重課税の負担を調整するために設けられているのが、外国税額控除です。
外国税額控除の対象範囲
外国税額控除の対象となるものとならないものについて解説します。国税庁によると、対象の範囲は以下のように定められています。
【外国税額控除の対象となるもの】 (1) 超過所得税その他個人の所得の特定の部分を課税標準として課される税 (2) 個人の所得又はその特定の部分を課税標準として課される税の附加税 (3) 個人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、個人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの (4) 個人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税 【外国税額控除の対象にならないもの】 (1) 金融取引における仕組み取引など、通常行われる取引だと認められない取引によって得た所得に対して課される外国所得税 (2) 出資金の払い戻しなどの資本等取引に課される外国所得税 (3) 居住者が非居住者であった期間内の所得に対して課される外国所得税 (4) 租税条約の規定において外国税額控除の適用外とされる外国所得税 (5) 特定外国子会社等及び特定外国法人から受け取る剰余金の配当等の金額に対して課される外国所得税 |
引用:外国税額控除を受けられる方へ|国税庁
この他、「税の納付猶予を納税義務者が任意で決められるもの」「税の全額または一部の還付が請求できるもの」「外国所得税に付帯して課される加算税や延滞税」といった種類の税金は外国所得税控除に含まれず、控除を受けることができません。
みなし外国税額控除とは
みなし外国税額控除とは、日本が租税条約を結んでいる開発途上国で企業誘致をする際などに発生する制度です。ただし、みなし外国税額控除は、課税の公平性・中立性に問題がある制度とされています。今後廃止される可能性が高い制度です。
外国税額控除の計算式と控除の流れ
ここからは外国税額控除の計算式と控除の流れについて解説します。
外国税額控除額を求める計算式
外国所得税は「所得税の控除限度額」を限度として、当該年の所得税額から差し引くことができます。外国税額控除限度額の金額は以下の計算式で求めることができます。
【外国税額控除限度額の計算式】 外国税額控除の限度額=所得税総額×(国外所得総額÷所得総額) |
「所得税総額」とは、課税所得に所得税率・法人税を掛けた額です。例えば、課税所得が700万円で、そのうちの国外所得総額が200万円だった場合の所得税総額は以下の計算式で求めることができます。
【所得税総額の計算式】 700万円×20%(所得税率)-42万7,500円(控除額)=97万2,500円 |
この計算式で算出された所得税総額を元に計算式にあてはめると以下のようになります。
【外国税額控除の限度額】 97万2,500円×200万円÷700万円=27万7,857円 |
外国税額控除の対象となる方は、この計算の例を参考に自身の控除限度額を計算してみてください。また、為替レートについては原則としてTTMを使用しますが、納税者に有利な場合、収入はTTB、経費はTTSでの換算も認められています。また、控除限度額を超える部分は住民税からも控除が可能です。
(注)
TTM:Telegraphic Transfer Middle Rateの略で「仲値」を意味する金融用語。TTBとTTSの平均
TTB:Telegraphic Transfer Buying Rateの略で、外貨を円に戻す際に適用される為替レート。日本語では「電信買相場」
TTS:Telegraphic Transfer Selling rateの略称で、日本語で電信売相場の意味。円を外貨に替える時に適用される為替レート
控除限度額と繰越について
なお、外国税額控除には限度額があり、外国に納付した所得税を全額還付してもらえるとは限らないということを覚えておきましょう。
また、外国税額控除限度額を超えて納付した所得税は、住民税の控除限度額を超えない範囲で、住民税から控除されます。控除額は以下の計算式で算出されます。
・都道府県民税の控除限度額=所得税の控除限度額×12% ・市区町村民税の控除限度額=所得税の控除限度額×18% |
外国税額控除額は翌年以降3年間にわたり繰り越すこともできます。限度額を下回った際には「控除余裕額」として、翌年以降3年間で限度額を上回ったときにこの分で控除することができます。
外国税額控除を受けるための手続きとは?
外国税額控除を受けるためには、確定申告をする必要があります。手続きの流れについて記載します。
申告手続きの必要書類
申告に必要となる書類は以下の4つです。
1.確定申告書
2.外国税額控除に関する明細書
3.外国所得税が課されたことを証明する書類
4.外国所得総額の計算に関する明細書
詳しく解説します。
外国税額控除を申請するためには、以下の書類を確定申告書に添付する必要があります。
1.確定申告書
確定申告書に国外所得を含む全ての所得を記載し、外国税額控除額を明記します。
2.外国税額控除に関する明細書
控除対象となる外国税額の計算過程や、国外所得の種類と金額、控除限度額の計算内容などを記載します。
3.外国所得税が課されたことを証明する書類
外国の税務当局が発行した納税証明書や源泉徴収票、納税告知書や更正決定通知書などが該当します。これらの書類には、外国での税金の名称、金額、納付日が記載されている必要があります。
4.外国所得総額の計算に関する明細書
国外源泉所得の計算過程や為替換算レート、所得の種類ごとの計算明細を記載します。
なお、繰越控除を適用する場合は、各年の控除限度額・納付した外国所得税が記載された書類といったものも追加で準備する必要があります。また、これらの書類は原則として日本語訳を添付する必要があります。申告漏れを防ぐためにも、必要書類は早めに準備することをお勧めします。
申告手続きをするには?
「外国税額控除に関する明細書」と申告書は国税庁のHPなどからDLできます。確定申告をする際に、合わせてこれらの書類もDLして必要事項を記入しましょう。完成した4つの書類と合わせて、税務署に提出すれば手続きは完了です。
●申告時期
外国税額控除の申告は、通常の確定申告期間である毎年2月16日から3月15日までの間に行います。ただし、還付申告の場合は、翌年1月1日から5年以内であれば申告が可能です。期限を過ぎると控除を受けられなくなる可能性があるため、早めに準備することが重要です。
●e-Taxでの手続き方法
近年は、e-Taxを利用したオンライン申告が一般的になっています。e-Taxでの申告手続きは、まずe-Taxのウェブサイトにアクセスし、確定申告書等作成コーナーで申告書の作成を始めます。申告書の作成後、外国税額控除に関する明細書を作成します。全ての書類の作成が完了したら、電子署名を付与して送信します。
e-Taxを利用することで、税務署に出向く必要がなく、24時間いつでも申告が可能です。また、申告書の控えや添付書類をデータで保存できるため、書類の管理も容易になります。ただし、初めて利用する場合は、事前に利用者識別番号の取得や電子証明書の準備が必要となりますので、余裕をもって準備することをお勧めします。
e-taxの詳細はこちらの記事をご覧ください。
参考:国税庁HP「外国税額控除に関する明細書(居住者用) 」(令和2年分以降用)
外国税額控除の申請前に確認すべきポイント
外国税額控除は、国際的な二重課税を防ぐための重要な制度ですが、その申請手続きには細心の注意が必要です。特に、外国での納税証明書の入手や為替レートの適用、必要書類の準備など、実務的な側面での正確な対応が求められます。以下では、外国税額控除の申請前に確認すべきポイントを解説します。
外国税額控除における所得の範囲が適切か
外国税額控除の対象となる所得には、海外での給与所得、海外不動産からの賃貸収入、海外企業からの配当金、国外での事業所得が含まれます。一方で、非居住者期間の所得や通常でない取引による所得、資本取引に関する所得は対象外となります。
申告時に対象外税金を含めていないか
外国税額控除を適切に受けるためには、いくつかの重要な注意点があります。特に申告時の間違いは、控除を受けられない、または控除額が減少するなどの不利益につながる可能性があります。
外国税額控除の申告において、最も多い間違いは対象外の税金を含めてしまうことです。例えば、付加価値税(VAT)や固定資産税、延滞税などは控除対象外となりますが、これらを誤って申告してしまうケースが多く見られます。
外国税控除限度額の計算ミスや書類不備がないか
また、控除限度額の計算ミスも頻発しています。特に為替レートの適用や、所得総額に対する国外所得の割合の計算を誤るケースが目立ちます。計算式は「その年の所得税額×(国外所得総額÷所得総額)」ですが、この計算の各要素を正確に把握することが重要です。
さらに、必要書類の不備も多く見られます。外国での納税証明書の日本語訳の添付漏れや、外国税額控除に関する明細書の記載不備などが典型的な例です。
困った際は税理士に相談しよう
複数国からの所得がある場合は、特に税理士への相談をお勧めします。各国の税制の違いや為替レートの適用、控除限度額の計算が複雑になるためです。
また、高額な外国所得がある場合も専門家のアドバイスが重要です。所得が高額になるほど、控除限度額の計算や適切な申告方法の選択が重要になります。
さらに、繰越控除を検討する場合も税理士への相談をお勧めします。相談によって3年間の繰越期間を最適に活用するための戦略的なアドバイスを得ることができます。早めの相談により、適切な税務戦略を立てることが可能となります。
外国税額控除のケース別取扱い例
外国税額控除の実際の適用例について、具体的なケースごとに解説します。
給与所得者の場合
給与所得者の外国税額控除について、事例を用いて説明します。特に多いケースとして、海外支店での勤務と海外出張時の所得について、それぞれの計算方法と注意点を解説します。
●海外支店勤務のケース
海外支店に勤務する会社員のケースを具体的な数字で見てみましょう。年間の所得総額が1,000万円で、そのうち国外所得が600万円の場合を考えます。まず所得税額は176万4000円となり、これを基に控除限度額を計算すると105万8000円となります。この金額が、外国税額控除として認められる上限となります。
具体的な計算過程を説明します。
・所得税額の計算
所得総額1,000万円の場合です。
1,000万円 × 33%(税率) - 153万6000円(控除額) = 176万4000円
・控除限度額の計算
所得税額をもとに、国外所得の割合で計算します。
176万4000円 × (600万円 ÷ 1,000万円) = 105万8000円
●海外出張時の所得のケース
海外出張時の所得については、その性質によって取り扱いが異なります。出張手当や日当は原則として国内源泉所得として扱われます。一方、現地での追加的な報酬、例えば現地での時間外手当などは、国外源泉所得として扱われます。
投資収入がある場合
海外投資からの所得に対する外国税額控除について、株式投資と不動産投資のケースを見ていきます。
●海外株式投資のケース
海外株式投資からの収入については、配当所得に対する現地での源泉税が控除の対象となります。また、株式の売却益に対する現地での課税についても、その国の税制によっては控除対象となる可能性があります。
●海外不動産投資のケース
海外不動産投資の場合、賃貸収入や売却益は不動産所得として総合課税の対象となります。この所得には、賃貸収入というインカムゲインと、売却時のキャピタルゲインの両方が含まれます。
特徴的なのは、減価償却費を経費として計上できる点です。ただし、現地と日本の両方で確定申告が必要となり、収支内訳書の作成や建物と土地の按分計算なども求められます。
注意すべき点として、固定資産税などの資産保有に関する税金は控除対象外となります。また、国によって課税方式が大きく異なるため、投資前に、現地の税制をよく確認することが重要です。
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