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経営

秘密保持契約書とは?作成・締結の流れと注意点

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秘密保持契約書とは?作成・締結の流れと注意点
企業間取引ではさまざまなシーンで「秘密保持契約」を締結します。秘密保持契約は秘密情報の漏洩、流出を防ぐための重要な契約です。ビジネスシーンのなかでも締結頻度の高い契約のひとつで、法務部門を有する企業は必ずといってよいほど自社に有利な条件を設定した秘密保持契約書を用意しています。この記事ではそもそも秘密保持契約とは何なのか、どのタイミングで締結するのか、秘密保持契約書にはどのような項目が記載されているのかなどについて解説します。

秘密保持契約とは?

秘密保持契約とは?


「NDA」の略称で浸透している秘密保持契約には、自社の営業秘密が不正に流出することや悪用されることを防ぐ目的があります。

秘密保持契約の概要

秘密保持契約とは、業務上知り得た企業秘密や顧客情報などについて、契約締結時に予定している用途以外で使うこと、また他人に開示することを禁止する目的で締結する契約のことです。英語で「Non-Disclosure Agreement」ということから、この頭文字を取って「NDA」とも呼ばれています。

企業が持つ営業秘密や個人情報は、自社の存続にかかわる重要事項です。企業同士が提携して商品開発を行ったり、製造委託で取引を行ったりと、事業を進めるなかで自社の秘密を外部に知らせる機会は数多くあります。
そのようなときに、相手方に秘密情報の管理義務を負わせ、自社の営業秘密が不正に流出することを防ぐ、また悪用されることを防ぐ目的で秘密保持契約を締結します。

秘密保持契約書の役割

秘密保持契約のおもな目的は秘密情報の漏洩や不正利用を防ぐことですが、間接的な役割として「特許申請」と「不正競争の防止」があります。
当該秘密情報に関する特許申請を予定している場合は、特許の保護や不正競争防止の観点から秘密保持契約を締結しておく必要があります。これは特許法29条1項1号において「公然知られた発明」(公知の発明)は特許を取得できない」と定められているためです。
「公然知られた発明」とは、不特定者に秘密のものでないとして当該発明の内容が知られた発明のことです。つまり秘密保持契約を締結しないまま特許にかかる秘密情報を開示した場合は「公知の発明」となり、特許権が認められない可能性があります。

秘密保持契約には不正競争を防止する役割もあります。不正競争防止法上の「営業秘密」にあたる情報が漏洩したことによって、第三者が同等の製品やサービスを作った場合は差し止め請求や損害賠償請求を行うことができます。
ただし営業秘密として認められるためには、その情報が不正競争防止法上の営業秘密として管理されていることが条件になります。秘密保持契約を交わしていないと、それが不正競争防止法上の営業秘密に該当する情報だと証明することができません。情報の秘密管理性を主張するためにも、秘密保持契約の締結が必要です。

秘密保持契約書を締結するタイミング

秘密保持契約は、秘密情報のやり取りが発生する前の段階で締結することが望ましいとされています。具体的には従業員の雇用など社内に人を入れる場面や、業務提携や製造委託、研究開発などの第三者と共同して事業を行う場面などです。相手方と何らかの契約関係を持つ際に秘密保持契約を締結するのが一般的です。
このほか、従業員の昇進時や退職時に誓約書の内容変更とあわせて締結することもあります。

秘密保持契約書の作成・締結の流れ

秘密保持契約書の作成・締結の流れ


秘密保持契約書はどちらかが一方的に作成するものではありません。自社と相手方の協議、同意にもとづいて作成、締結します。

作成・締結の流れ

秘密保持契約の締結は、一般的に以下の流れで行います。

1.双方で契約内容を協議する
秘密情報の定義やその範囲、秘密保持義務を負う人の範囲など、秘密保持契約の内容を当事者双方で協議します。

2.内容の雛形を作成する
当事者のどちらかが契約書の原案を作成します。原案作成者側が有利になるケースもあるため、情報を提供する側が雛型を作成するとよいでしょう。

3.内容をチェックして修正、合意を得る
雛型に自社の意向を盛り込んだ契約書案を作成して相手方に提示します。最終的に双方が合意するまで適宜協議、修正を重ねて契約内容を調整します。

4.契約書の書面作成、記名押印
双方の意向が完全に合致したところで契約書の書面を作成し、当事者が署名捺印します。実印で押印するのが理想ですが、認印などでも問題ありません。

5.双方が記名押印をする
契約当事者が署名(記名)捺印します。実印で押印するのが理想ですが、認印などでも問題ありません。

秘密保持契約書の項目

秘密保持契約書に記載されている基本的な項目は以下のとおりです。

1.タイトル・見出し
「秘密保持契約書」と冒頭に書かれるのが一般的ですが「機密保持契約書」と書かれる場合もあります。どちらも法的な意味に違いはありません。

2.秘密情報の範囲
何を秘密情報とするのか、その範囲はどこまでなのかを定義します。万が一情報の漏洩があった場合、たとえ自社で秘密情報と考えていても、ここで定義されていない範囲の情報は契約違反として問うことができません。

3.目的外使用の禁止
秘密情報を目的外で使用することを禁ずる規定を記載します。この一文がないと、もしも相手方が秘密情報を流用して製品やサービスを作ってしまっても責任を問うことができなくなります。

4.コピー・複製の取り扱い
秘密情報が含まれている資料について、コピーを認めるのか、あるいは認めないのかを明記します。複製した場合の取り扱い、管理方法についても明記します。

5.契約の有効期間
秘密保持契約上の義務はいつまで継続されるのかを明確にします。具体的な期間はプロジェクトの期間や秘密情報の重要性などによって異なりますが、3〜5年程度に設定するケースが多くみられます。

6.秘密情報の返還・廃棄
契約終了後、相手方に渡した秘密事項をどう扱うのかについて明記します。これには契約終了後も相手方に秘密情報が残っていると、不正利用や漏洩のリスクが残るためです。直ちに相手方に返還する、当該秘密情報を消去するとともに、消去した旨を書面にて報告する、などの一文を加えます。

7.保証について
ほかの事業者に対しても同じ秘密情報を開示することが想定されている場合や、開発途中などの理由により秘密情報の正確性が保証できない場合などに記載します。秘密情報開示の権利を持っているのはあくまでも秘密情報を開示する側であることを保証させるものです。

8.知的財産権
なかには知的財産権に関する秘密情報もあります。知的財産権がどちらに帰属するかをあらかじめ定めておき、後々発生するかもしれない法的紛争のリスクを下げます。

9.情報漏洩時の措置
万が一秘密情報が漏洩したか、その疑いがある場合にどのような措置を講じるべきかを契約書で明確にしておきます。相手方に情報管理者を定めること、漏洩などが発生した場合は直ちに報告すべき義務があることなどを定めるのが一般的です。

10.権利義務の譲渡禁止
契約当事者としての権利義務について、第三者に譲渡することを禁じる旨を記載する場合もあります。とくに吸収合併や会社分割が譲渡に含まれるのか否かは明確に定めておくとよいでしょう。

11.作成年月日と署名・押印
最後に秘密保持契約を締結した年月日を記入、契約当事者それぞれの氏名の記載と押印することで、秘密保持契約が締結します。この作成年月日から秘密保持義務を負うことになります。

秘密保持契約を締結する際の注意点

秘密保持契約を締結する際の注意点


秘密保持契約を締結する際のおもなチェックポイントは次の3つです。

秘密保持契約の署名・押印のルール

秘密保持契約には当事者双方の署名または記名押印が必要です。所在地、署名までプリンターで印字して押印する形でも構いません。
秘密保持契約書に押印するハンコの種類に規定はありません。重要な契約には実印を使用して、さらに印鑑証明書を添付することもあれば、重要性に乏しいものには認め印や担当者のサインだけで済ませるケースもあります。秘密保持契約の有無が問題になった場合の立証力を想定して選ぶのが一般的です。

郵送で依頼する際のポイント

書式によっては相手方に郵送で秘密保持契約書を送付し、署名と捺印を依頼することもあります。この場合は「簡易書留」などを利用して配達記録を残しておきましょう。簡易書留や配達記録郵便では相手に手渡しで届けるため、配達漏れや配達後の盗難などを防ぐことができます。
また秘密保持契約書は双方が一部ずつ持つ必要があります。相手方には2通の契約書を送付して1通を返送してもらわなくてはならないため、返信用切手をした貼付返信用封筒を同封するのがマナーです。

収入印紙は不要

契約書に印紙を貼り付けるかどうかは、その契約書が印紙税法で定める課税文書の対象となるか否かによって異なります。秘密保持契約書は課税文書に該当しないため、収入印紙の貼り付けは不要です。ただし記載内容が課税物件表の事項に該当すると判断された場合は印紙税が発生することもあります。

まとめ

情報が簡単に拡散される現代社会において、秘密保持契約は自社を守るための大切な契約です。業務提携や業務委託、共同開発や従業員雇用時など、企業活動のさまざまなシーンで必要になります。そのため、社内に秘密保持契約書の雛型や規定例を用意しておくと、相手方とスムーズに秘密保持契約を締結することができます。ただし秘密にすべき情報の範囲や秘密保持義務を負う人の範囲、契約終了後の情報破棄の方法などは雛型をそのまま引用せず、契約の特性にあわせて忘れずに書き換えましょう。