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経営

LLPとは?設立のメリット・デメリットから登記方法まで

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LLPとは?設立のメリット・デメリットから登記方法まで

LLPという事業形態があることをご存知ですか。事業を始めるに当たって、株式会社や合同会社(LLC)といった法人化を検討することは多いものの、法人格のない事業体であるLLP(有限責任事業組合)は意外と知られていないのが現状です。
今回はLLPについて、概要とともにメリットやデメリット、設立の流れについて詳しくお伝えします。

この記事を読んでわかること

・LLPとは、有限責任事業組合(Limitedd Liability Partnership)という事業体のこと
・有限責任・内部自治の徹底・組合員課税を特徴としているLLP
・構成する組合員の任期、簡易は設立、税制面などメリットは多い
・株式会社への変更ができない、法人格ではないというデメリットもある
・LLP設立のための準備と登記までの流れ
・今後期待されるLLPの分野

LLPとは

LLPとは

LLPの意味

LLPとは、有限責任事業組合(Limitedd Liability Partnership)のことで、2005年8月に創設された新しい事業体です。
業種や企業規模にとらわれず、さまざまな分野や人材の連携により、また地域活性や社会的貢献活動など共同事業を行うための事業体として、「出資者全員の有限責任」「経営の柔軟性」「構成員課税の適用」を特徴とする法人格のない組織形態であり、これまでにない可能性と展開が期待されています。

日本でLLP法が制定された背景

日本版LLP法が2005年5月に制定された背景として、当時海外で、共同出資・共同経営が可能な多数の合弁企業(ジョイント・ベンチャー)が設立されたことがあげられます。

合弁企業(ジョイント・ベンチャー)は同じ目的を持つ人や企業が協力して事業を作るという点でLLPと似たような性質を持っており、新規事業やサービス開発が行いやすいという点から主流の方法でした。

日本国内でも、企業同士の協力によって新しいアイデアやサービスが生まれることを目指し、日本独自のLLP法が制定された経緯があります。

LLPと他の組織形態との違い

LLPの他には次のような事業体があります。

・LLC(合同会社)
・LPS(投資事業有限責任組合)
・株式会社
・JV(ジョイント・ベンチャー)
・個人事業主

LLPとLLC(合同会社)の違い

LLC(合同会社)は、2006年5月に登場した会社法で認められた会社形態です。LLPが法人格をもたない一方で、LLCは、法人格を有することが大きな違いといえるでしょう。

出資者(組合員)と経営者が同一で、出資者が有限責任を負うことは共通点ですが、法人格を持つLLCでは、会社の利益に対して法人税が課税され、出資者に対しても利益分配で配当課税される二重課税です。その点、法人格のないLLPであれば、組合員としての課税のみに留まります。

LLPとLPS(投資事業有限責任組合)の違い

LPS(投資事業有限責任組合)は「投資事業組合」のひとつです。投資事業組合はベンチャーキャピタルを中心に金融機関などが組織するもので、未公開ベンチャー企業が発行する有価証券への投資を目的としています。

LLPではすべての組合員が有限責任の範囲でしか責任を負わないのに対し、LPSは無限責任組合員と有限責任組合員によって構成され、無限責任組合員は運営に関するすべての責任を無限に負い、有限責任組合員の責任は出資した金額によって制限されます。

LLPと株式会社の違い

法人格を持つ株式会社は、LLC(合同会社)と同様に「二重課税」という点が、法人格を持たないLLPとの相違点です。

また、出資者の有限責任という点ではいずれも共通するものの、株式会社の場合、出資者の出資金を元手に経営者が事業活動を行うため、出資者と経営者は必ずしも一致しません。利益配当は株主総会や取締役会の決議を経たうえで出資比率によって決まりますが、LLPは内部ルールで柔軟に決めることができます。

LLPとジョイント・ベンチャー(JV)の違い

ジョイント・ベンチャー(JV)は、合弁会社とも言われます。共同出資により事業を立ち上げるという点で、ジョイント・ベンチャー(JV)もLLPの特徴を活かした事業体のひとつです。LLPの利点を活かし、企業同士の合意があれば迅速に意思決定ができるという特徴があります。

ジョイント・ベンチャー(JV)には、既存企業がお互いのネームバリューを活かして新しい法人を立ち上げるケースも含まれます。

LLPと個人事業主の違い

それぞれの責任範囲が大きく違います。個人事業主は無限責任で、事業の失敗などにより負債を抱えた時は、その全額を支払う義務が生じます。

LLPの事業が失敗した際は、LLPの財産からのみ返済が行われます。出資者は有限責任を負い、出資した額は戻ってこないものの、出資した額以上の返済義務は生じません。

LLPの特徴

LLPの特徴

LLPの特徴として、「組合員全員に有限責任が認められていること」「内部自治が徹底していること」「パススルー課税(構成員課税)が適用される」などがあげられます。それぞれについて詳しく説明しましょう。

組合員全員に有限責任がある

LLPの組合員は、その出資額を限度に責任を負います。つまり、出資額を超えた責任は負わないということです。個人・法人を問わず、LLPの組合員になることができ、利益がでれば利益を享受することができますし、負債が生じても債権者に対するリスクは限定されます。

内部自治が徹底している

組合員の貢献度合いなどにより権限や損益の配分など組合内部の運営ルールは、出資比率と異なる分割配分を決めることができます。また、組合の所有(出資者)と経営が一致するため、取締役会や監査役といった経営者に対する監視機関の設置が強制されず、柔軟な運営が可能です。

パススルー課税が適用される

法人格を持たないため、LLPで生じた利益は、LLP自体には課税されず、利益の分配をうけた組合員に直接課税されます。こういった課税方法を「パススルー課税(構成員課税)」と言い、LLC(合同会社)のような二重課税が発生しないことがLLPの特徴です。

● LLPの事業としてインボイス制度の利用が可能

LLPの事業として、インボイス制度(正式名称:適格請求書発行事業者制度)を利用する際は、以下の要件を満たす必要があります。

・組合員全員が適格請求書発行事業者である
・「任意組合等の組合員の全てが適格請求書発行事業者である旨の届出書」を提出する

上記を満たす場合に限り、組合員のいずれかが、LLPの事業としての適格請求書を発行することができるようになります。パススルー課税が適用されるLLPは、LLPが消費税課税事業者になるわけではなく、納税主体は構成員である組合員となります。したがって、適格請求書には発行する組合員の登録番号を記載するため、LLPに登録番号が交付されるわけではありません。

なお、適格請求書の写しの保存は、適格請求書を発行した組合員が行うこととされています。

LLPのメリット

LLPのメリット

LLPでは、組合員の任期がありません。また、設立費用が安い、設立にかかる期間が短い、内部自治を徹底できるなど、他の事業体にはないメリットがあります。それぞれについて解説していきます。

組合員の任期がない

構成する組合員には任期がありません。それぞれの強みを活かした構成員の集団と考えると、任期を設ける必要がないという方が適切かもしれません。また、株式会社のように、代表取締役などの役職を設ける必要もありません。

定款が不要で設立する時の費用が安い

LLPの設立にかかる費用は、登録免許税6万円のみです。株式会社の設立には、収入印紙や定款の認証手数料、登録免許税などで約25万円の費用がかかることをふまえると、LLP設立のメリットは大きいといえます。

設立にかかる期間が短い

LLPの設立は、早ければ数日~2週間程度で設立することができます。株式会社の設立には、定款の作成や公証役場での認証など数週間~1ヵ月程度の期間が必要です。

決算公告の義務がない

LLPは、出資者と経営が同一であるため決算公告の義務がありません。株主という出資者に対し、会社の経営状態を報告する義務のある株式会社では、決算書類を作成し、決算公告を行わなければなりません。

内部自治が徹底できる

出資者への報告も役職の任期もないLLPでは、組合員同士の合意で柔軟に重要事項を決定することができます。株式会社であれば取締役会や監査役の設定が義務付けられますが、LLPではそういった制限を受けません。自由に新しい発想を目指すLLPだからこその魅力ともいえます。

柔軟な利益配分が可能

内部自治の徹底により、出資比率によらず、損益の柔軟な分配が可能です。組合員の合意のうえで、労務や才能、知的財産、ノウハウの提供などを反映し、自由に配当額を決めることができます。LLPは資金ではなく人に重きを置く組織であり、その能力や技術力に価値を見出します。

損益通算ができる

LLPでは、法人税が課税されずに、出資者である組合員に対して直接課税されます。そのため、組合員はLLPの事業で損失が生じた場合、出資額を限度として定められる一定の範囲内の金額を別の事業から生じた所得と通算することができます。結果として、全体の課税所得額を圧縮することが可能です。

多様な連携が可能

LLPは、それぞれの個性や能力が重視される組織です。個人でも法人でも組合員になることができます。外国人や外国法人も組合員になれますが、任意団体など法人格のない組織は組合員になれません。気の合った仲間同士の連携や特定のスキルを持った人の連携などさまざまな活動が可能です。

LLPのデメリット

LLPのデメリット 

新しい事業体の形でありメリットの多いLLPですが、「株式会社への変更ができない」「法人格ではない」といったデメリットもあります。こうしたデメリットを理解しておくことも大切です。

株式会社への変更ができない

LLPは、株式会社への変更ができません。事業活動をすすめるうえで、株式会社に変更したいと考える場合には、LLPを解散したうえで、新たに株式会社を設立する必要があります。手間もお金もかかるため、事業を始めるに当たって、どのような組織形態にするのか慎重に検討することが必要です。

法人格ではないため契約主体になれない

法人格がないことはメリットであると同時に、デメリットにもなり得ます。法人であれば得られる「信用」や内部留保、税制面での節税効果などがないことです。また、LLPは契約主体にはなれず、LLPの団体名では契約ができないため、組合の名義ではなく、組合員個人の名義を使うことになります。組合として許認可の取得もできません。許認可が必要となる事業や業務を行う場合は、各組合員が個人で取得することになります。そのうえで、必要に応じて、許認可を受けた組合員が集まって共同で事業や業務を行う手続きを踏みます。

LLPを登記する方法と流れ

では、LLPを設立するためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。具体的な流れについて、「準備」「契約書の作成」「出資金の振り込み」「登記」のステップごとに説明しましょう。

準備

まずは、発起人が「設立基本事項」を決定する必要があります。
設立基本事項の内容としては、「所在地」「事業内容」「目的」「組合の存続期間」「組合員の出資額」「組合員の人数」「組合員の条件」「職務執行者」「事業団体名称」「事業年度」が含まれます。これらの基本事項について検討したうえで、設立に向け具体的に進めることになります。

なお、LLP設立にあたっては、事業団体名称として「有限責任事業組合」という名称を入れる必要があります。

契約書の作成

設立基本事項をもとに、「組合契約書」を作成し、組合員とそれぞれ契約を交わします。そのため、契約書は組合員の人数分を準備する必要があります。

以下の8項目は、組合契約書に必ず明記しなければいけない「絶対的記載事項」です。

1.有限責任事業組合(以下「組合」という)の事業
2.組合の名称
3.組合の事務所の所在地
4.組合員の氏名または名称および住所
5.組合契約の効力が発生する年月日
6.組合の存続期間
7.組合員の出資の目的およびその価額
8.組合の事業年度(事業年度は1年を超えることはできない)

なお、必要に応じて、「組合員の任意脱退に関する定め」「法定解散事由以外の解散事由」などについて記載することは任意ですが、記載することで効力が生じる「相対的記載事項」と組合員間で取り決めた事項を記載する「任意的記載事項」があり、契約書に明記することもできます。

出資金の払い込みを行う

契約書の作成後に、LLP設立にあたっての出資金を払い込みます。組合員ごとに契約に記載した金額を振り込みます。出資金額は1円以上、現金だけでなく、現物資産(動産、不動産、有価証券など)や無形資産(特許など)の出資が可能です。ただし、労務出資はできません。

登記申請に向けて、振り込みを確認できる通帳のコピーや払込証明書を準備しておきます。

法務局へ申請する

必要書類が揃ったら、組合契約の効力発生の公知をするために、事務所の所在地を管轄する法務局に登記申請をします。

必要書類として「効力発生登記申請書」「組合契約書」「出資金の払込み証明書類」「登記すべき事項を記録した磁気ディスク」「印鑑届書」「印鑑証明書(全組合員)」などを提出のうえ、登録免許税6万円を支払います。

申請後、不備がなければ2週間程度で登記が完了します。業態によっては許認可などの申請が必要であり、雇用する場合には社会保険の加入手続きを行う必要があります。登記が完了したことで、登記事項証明書や印鑑証明書が取得できるため、税務関係や保険関係の届出を行います。

LLPが役立つ分野とは

LLPが役立つ分野とは 

LLPでは、異業種同士や規模が異なる企業や個人が共同して事業を行うために集まり、それぞれがその能力や技術を活かして主体的に事業活動に取り組むことが想定されていることから、さまざまな分野での事業の可能性があります。

経済産業省のWEBサイトでは、次のように紹介されています。

・フリーアナウンサーによる朗読講演や話し方講習会を行う言葉のプロ集団LLPの設立
・企業として取り組んできた環境保護への活動を、施策推進組織としてLLP設立
・アニメーション作品の企画立案、制作及び製作管理、権利許諾、宣伝、営業活動を行うLLP
・フリーの管理栄養士で構成し、栄養指導・講演・講座・コンサルティングを行うLLP

一方で、弁護士、公認会計士、司法書士、税理士などの一定の士業の業務はLLPの対象外です。有限責任を特徴とするLLPとクライアントに対して無限責任を負うこれらの士業とは整合性がとれないためです。

また、宝くじなどの購入、馬券や競輪・競艇の車券や舟券などの購入など、組合の債権者に対して、不当な損害を与えるおそれがある業務は行うことができません。

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おわりに

LLP(有限責任事業組合)は、比較的新しい事業形態であるため、意外と知られていないものの、個人でも法人でも共同で事業を始めることのできる組合です。個人事業主1人では、アイデアはあっても実現が難しいケースも多くあります。大きな企業の中では、さまざまな規制により推進が難しいケースもみられます。過疎化の進む地方や格差の広がる首都圏などさまざまな場所やさまざまな分野で自由な発想の実現に期待したいものです。LLPについて知るとともに、自分自身ができることについて考えてみることをおすすめします。