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繰延資産とは?分類や対象となる項目と仕訳例をわかりやすく解説
このような支出の勘定科目のひとつに「繰延資産(くりのべしさん)」が挙げられます。本記事では繰延資産とは何か、対象となる項目、償却期間・償却限度額、仕訳例などについて解説します。
繰延資産(くりのべしさん)とは?
繰延資産とは、複数年度にわたって費用に計上できる資産です。財産の形質は有形・無形を問いません。しかし繰延資産に認められるにはいくつかの条件があります。その条件について、以下に詳しくみていきます。
繰延資産とは支出後に長期間収益を生む可能性が高い資産
繰延資産は「支出後に長期間収益を生む可能性が高い資産」、つまり会社や事業の創立や成長・発展につながる支出でなければなりません。
国税庁が認める繰延資産の条件には、「支出の効果が翌期以降にも及ぶと予想される費用」と記載されています。そのため建物や車両などと異なり、例えば開業費や開発費、広告費などといった目的で生じた出費が対象となるのです。
繰延資産として認められるためには、「効果が翌期以降にも及ぶと予想される」形質の支出であるうえに、5つの分類に該当するものでなければなりません。対象項目のいずれかに分類できない場合、繰延資産としての計上はできないことになります。対象項目の詳細はのちほど解説します。
また、繰延資産として認められるためには、償却期間を遵守することも要件です。償却期間の年数は対象項目によって異なるので、各々の期間を把握しておきましょう。
繰延資産は会社が所有する資産として貸借対照表に表示する
繰延資産は会計処理および法人税の算出にかかわるため、財務諸表への記載が必要です。
繰延資産は、年単位の長い時間がかかるものの、将来的にはほぼ確実に収益を生み出す支出です。このことから、繰延資産は会社が所有する資産として、賃借対象表においては固定資産と流動資産のいずれにも含めず、資産の部にて独立表示されます。
繰延資産の対象となる支出には、収益がすぐにもたらされることはないものの長期間にわたって少しずつ収益を得られるという性質があります。しかし、支出が発生した直後は財務負担が最も重くなる傾向にあり、支出をそのまま計上すると赤字決算になりかねません。そこで企業の費用負担を軽減するため、少しずつ費用化することが可能となっています。また数年にわたって費用計上ができることから、法人税の軽減という意図もあります。
繰延資産と他の資産の違い
先に解説したとおり、繰延資産は、賃借対象表において固定資産と流動資産のいずれにも含めず、独立して表示されます。それでは、繰延資産と固定資産・流動資産には、どのような違いがあるのでしょうか。その違いについて、解説します。
流動資産・固定資産とは?
流動資産とは、1年以内といった短期間で現金化できる資産をいいます。流動資産に含まれるのは、現金や預金、売掛金、棚卸資産などです。
固定資産とは、長期間にわたって使用される資産や、現金化に1年以上を要する資産をいいます。固定資産に含まれるのは、土地、建物、機械設備などの有形固定資産、特許権や営業権(のれん)、ソフトウエアなどの無形固定資産、企業が長期保有する債券や有価証券などの投資、その他の資産です。
現金化までの期間に違いがある一方で、財産価値を有する資産であるという共通点もあります。
繰延資産と流動資産・固定資産の違い
流動資産と固定資産は、財産価値を有する資産です。しかし繰延資産は、年度をまたぎ、一定の期間にわたって費用として計上される支出を指し、財産価値を有する資産ではありません。名称は似ているものの、異なる性質を持つという点に留意しましょう。
繰延資産に分類できる項目は?
繰延資産として認められるための条件は、「効果が翌期以降にも及ぶと予想される」形質の支出であることに加え、「対象項目のいずれかに分類できること」です。この対象項目は、企業会計上と法人税法上とで異なります。それぞれの場合における項目の詳細は以下のようになっています。
企業会計上の繰延資産の対象項目
企業会計上の繰延資産には以下の5つの項目があり、いずれかに該当していなければなりません。
●創立費
会社の立ち上げにかかる創立費は繰延資産として認められています。会社を創立したばかりのころには多くの支出が発生する反面、それらが収益を生むようになるのはある程度の期間を経る必要があるからです。創立費に該当するのは、定款の作成費用や登記をする際に支払う登録免許税などです。
●開業費
会社を立ち上げてから実際に事業を開始するまでの間に、ある程度の準備期間を要します。この期間に発生する開業費もゆくゆくは収益へとつながるため、繰延資産として認められます。開業費に分類される費用には、宣伝を目的とする広告費や事業を行う上で必要なオフィスなどの環境整備費、名刺の作成費などが挙げられます。
●開発費
新たな製品やサービスの開発、市場の開発など、収益を生む目的で使用される費用も、繰延資産に分類することが可能です。また、開発費には上記の例に加えて、既存事業における生産率向上を目的とした支出なども該当します。
●社債発行費
社債を発行する場合、そのための費用が新たに発生します。一般的に社債は年単位で発行されることから、社債発行費もまた繰延資産に分類することが可能です。この費用には、社債券の印刷費や社債登記を行う際に発生する登録免許税、金融機関へ支払う手数料などが該当します。
●株式交付費
社債と同様に株式もまた、それが収益につながるようになるまでにはある程度の期間が必要です。そのため、株式の交付時に発生する費用も繰延資産に分類されます。株式交付費に分類されるのは、株券の印刷代や変更登記時の登録免許税、金融機関へ支払う手数料などで、この点に関しても社債発行費と条件がよく似ているといえます。
法人税法上の繰延資産の対象項目
法人税法の観点から見た場合の主な対象項目は、以下の5つです。
●公共的施設または共同的施設の負担金
事業を行ううえでは公共的・共同的施設を利用するケースも少なくありません。これらの施設を利用する場合、その設置費や改良費などの負担金を繰延資産として計上可能です。例えば商店街の一画に店舗を構える場合、商店街全体で共同利用しているアーケードなどの設置やそのメンテナンスにかかる費用は繰延資金に分類することができます。
●資産賃借時の権利金
事業においては資産を賃借する際に権利金として支出が発生することがあり、このような各種権利金もまた法人税法上は繰延資産として分類されます。繰延資産として計上できる具体的な権利金の一例としては、賃貸契約時の礼金や業務で使用する機器の賃借時に発生する費用などです。ただし賃貸契約時の敷金や保証金などは対象外となる点に注意しましょう。
●立退料
レンタルオフィスなどを使用するために賃貸契約を結んだ場合、その解約時、および退去時には立退料が発生することも珍しくありません。この立退料に関しても法人税法上の繰延資産として認められていることから、計上が可能です。
●広告宣伝用資産
自社の製品・サービスや事業などを宣伝する目的で広告を出すこともあるでしょう。この際に使用した広告宣伝用資産を贈与する場合、それによって発生した費用も法人税法上の繰延資産として計上できます。この場合に対象となる広告宣伝用資産とは、看板や商品の陳列棚、ショーケースなどです。
●役務提供時の権利金
事業形態によっては役務の提供を受けることもあります。例えばフランチャイズへの加盟が必要な場合、加盟料やノウハウの使用料などが発生することがあり、これらの権利金もまた法人税法上の繰延資産として計上することが可能です。権利金に関しては、資産の賃借にかかわるものだけでなく、このような役務の提供にかかわるものも繰延資産として認められます。
参考:国税庁「第3節 繰延資産の償却費の計算」
繰延資産の償却方法
繰延資産の扱いでは、償却期間と償却限度額についてもよく理解しておかなければなりません。これら2点は対象項目によって変化し、条件に合った正しい期間・限度額を把握しておくことが大切です。繰延資産を計上する場合は、企業の会計処理と法人税で償却の仕方が異なるため、それぞれの場合での償却方法について、解説していきます。
また、解説を進めるうえで触れておきたいのが、「任意償却」と「均等償却」です。まずはこの2つの償却方法の概要を説明します。
2つの償却方法
償却方法には、任意償却と均等償却とがあります。それぞれの概要は以下のとおりです。
●任意償却
任意償却とは、繰延資産として計上した支出を、償却期間や繰延資産額のそれぞれの範囲内において、企業の判断で任意に償却することを指します。例えば、利益が多い年度には償却額を増やす、少ない年度には償却額を減らすといった計上が可能で、税務上の利益を圧縮するなどの効果が見込めます。任意償却により、キャッシュフローの改善や経営戦略に応じた柔軟な対応が可能です。
●均等償却
均等償却は、繰延資産の金額を一定期間にわたり均等に償却する方法です。年間の償却費の計算式は以下のように定められています。
年間の償却費 =繰延資産の支出総額÷償却期間の年数×本年中の償却期間の月数÷12ヵ月 |
この方法では、毎期同じ金額を償却費として計上し、利益に対する影響を均等に分配することが可能で、財務状況の安定が図れます。
それでは以下より、会計上の繰延資産の償却方法と、税務上の繰延資産の償却方法について、解説します。償却期間と償却限度額について、理解を深めましょう。
会計上の繰延資産の償却方法と償却期間・償却限度額
上述した5つの会計項目に該当した支出を繰延資産で計上する場合、「任意償却」か「均等償却」を選ぶ必要があります。均等償却を選んだ場合の償却期間は、創立費・開業費・開発費が5年、株式交付費は3年で、社債発行費に関しては社債の償還期限が償却期間となります。また、任意償却の場合は償却期間に制約が発生しません。
一方、繰延資産については償却限度額も順守する必要があります。会計上の繰延資産に関しては、いずれの資産でも帳簿上の残存価額がそのまま償却限度額となります。
税務上の繰延資産の償却方法と償却期間・償却限度額
税務上の繰延資産の償却期間は、建物や機器、権利や契約など、各資産の性質によって決められており、一定ではありません。国税庁のホームページで資産ごとの期限を確認しておきましょう。なお税法上の償却限度額は「繰延資産額×当期の月数÷償却期間の月数」の式から求めます。
●20万円未満の少額な繰延資産について
少額な繰延資産については、法人税法施行令第134条の規定によって、支出した日を含む事業年度においてその全額を損金として計上することができます。少額とは、支出金額が20万円未満のものです。ただし、支出した事業年度に全額を損金経理しなかった場合は、通常の方法で償却しなければなりません。
繰延資産の勘定科目・仕訳例
実際に繰延資産の仕訳を行う場合、具体的な実例が参考になるでしょう。ここでは、繰延資産の仕訳に用いられる勘定科目について解説したのち、開業費償却と創立費償却の仕訳例を見ていきます。
繰延資産の仕訳に用いられる勘定科目
繰延資産の仕訳に使用する勘定科目は、貸借対照表と損益計算書とで、また会計上の繰延資産と税法上の繰延資産によって異なります。詳しくは以下のとおりです。
繰延資産の種類 | 貸借対照表での勘定科目 | 損益計算書での勘定科目 |
会計上 | 繰延資産 |
繰延資産償却
※開発費は販管費、その他は営業外費用も適用可
|
税法上 | 長期前払費用 |
長期前払費用償却
※減価償却費も適用可 |
開業費償却を仕分ける場合
開業時に広告宣伝費として使用した20万円を繰延資産として計上したケースでは、以下のような仕訳が行われました。
・計上時
借方…20万円
貸方…20万円
開業に伴う宣伝のために広告宣伝費として20万円を現金で支払い、繰延資産に計上。
・決算時
借方…4万円
貸方…4万円
開業費を5年で償却することとし、決算に際して当期12ヵ月分の4万円を償却。
創立費償却を仕分ける場合
会社の創立時に支払った登記費用などの創立費40万円を繰延資産として計上したケースでは、以下のような仕訳が行われました。
・計上時
借方…40万円
貸方…40万円
会社創立に伴って創立費として40万円を現金で支払い、繰延資産に計上。
・決算時
借方…8万円
貸方…8万円
創立費を5年で償却することとし、決算に際して当期12ヵ月分の8万円を償却。
このように、開業時の宣伝広告費や設立時の登記費用などを繰延資産と計上するためには、支出を正確に管理する必要があります。繰延資産のフローを管理するためにも、社用のクレジットカードを用意するなど、管理方法を検討した方が良いでしょう。
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会社経営では繰延資産に該当するような大きな出費が発生するため、社用のクレジットカードを用意しておくと安心です。例えばクレディセゾンでは法人向けのセゾンプラチナ・ビジネス プロ・アメリカン・エキスプレス®️・カードを発行しています。
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まとめ
繰延資産は長期間にわたって収益を生む資産であり、計上時にはそのことを踏まえた適切な方法で処理をする必要があります。また、計上時に「企業会計」と「法人税法」のどちらの対象項目に該当するものなのかを判断し、各々の条件によって決まる償却期間や限度額を遵守しましょう。
また、繰延資産の支払いは高額になりがちなため、キャッシュフローを改善しやすいクレジットカードを活用する方法が有効です。セゾンプラチナ・ビジネス プロ・アメリカン・エキスプレス®️・カードのキャッシュバック特典などを賢く活用することで、実質的に経費節約にもつながります。