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経営

垂直統合でコスト削減!水平統合との違いやメリット・デメリットを解説

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垂直統合でコスト削減!水平統合との違いやメリット・デメリットを解説
垂直統合とは、今まで外部に任せていた活動を自社で行うことをいいます。競争力を高めるビジネスモデルであり、取引コスト削減やシナジー効果の獲得につながります。うまく活用するためにも、水平統合との違いやメリット・デメリットについて理解を深めましょう。

必要な工程を上流から下流までまとめ上げる垂直統合

垂直統合は、原材料の生産から製品の販売に至るまでのプロセス(サプライチェーン)において2つ以上のプロセスを一つの企業内にまとめることを指します。主に垂直統合は、合併や買収、アライアンスによって実現されることが多いです。垂直統合は取引コストの削減を可能とし、経営の効率化をもたらします。

「外部に任せていた活動を自社で担うこと」を意味する

垂直統合は、簡単にいうとある製品・サービスを作る際に今まで外部に任せていた活動を自社で担うことです。例えば自動車の製造のみを行っている会社の場合、外部の取引先に任せていた「販売」や「原材料の調達」といった活動を自社で行うようにするのが垂直統合です。

川上統合と川下統合の2種類に分けられる

原材料の生産から製品販売に至るまでのサプライチェーンにおいて、原材料の生産に近いプロセスを「川上」、製品販売に近いプロセスを「川下」といいます。自社から見て川上に向かって統合することは「川上統合」と呼ばれます。例えば商品の製造を行っている会社が原材料の生産に事業領域を拡大するケースが川上統合です。

一方で「川下統合」は、自社から見て川下に向けた統合を指します。商品の製造会社が販売店を運営するケースが該当します。

垂直統合を実現する手段

垂直統合を実現する手段は、主に「M&A」「アライアンス」の2つです。M&Aとは、他の会社を買収または合併する手法です。会社の経営権や事業ごと取得する点が大きな特徴です。

一方でアライアンスは、お互いに経営権を維持したまま複数の会社が特定の目標を達成するために協力する手法です。経営権を取得されたくない場合や簡単な手続きで垂直統合を図りたい場合には、アライアンスの活用が望ましいでしょう。

しかし、相手会社とのシナジー効果を最大限発揮したい場合には、M&Aによる垂直統合が適しています。

垂直統合を実施する5つのメリット

垂直統合は、取引先との手数料や輸送費用の削減につながるだけでなく、他社との合併や買収によるシナジー効果も期待できます。加えて、サプライチェーン上における裁量も増大するため、新しい戦略や施策の策定および商品・サービスの安定的な供給にもつながるでしょう。

1:外部企業との取引コストの削減

垂直統合で得られる最大のメリットは、外部企業との取引で生じていたコストを削減できることです。例えば原材料の生産プロセスを統合すれば仕入コストや商品の販売プロセスを統合すれば販売手数料を支払わずに済みます。取引コストを削減することで売上高の増加を伴わずに、利益率を高める効果も期待できます。

2:安定的な商品・サービスの供給が可能となる

垂直統合によって、外部企業との取引を減らすほど安定的な商品・サービスの供給につながりやすいです。例えば原材料を外部の企業から調達する場合、外部企業の減産(生産量を減らすこと)や倒産などにより自社の生産活動が計画通りに進まなくなる点は大きなリスクです。

しかし、自社で原材料を生産すれば外部企業の意思決定や倒産に左右されずに済むため、安定的な商品・サービスの供給が可能となります。したがって、その分の売上や利益も安定し、顧客満足度が低下するリスクも軽減できるでしょう。

3:シナジー効果により技術力や収益性が高まる

シナジー効果も垂直統合で得られる魅力的なメリットの一つです。シナジー効果とは、複数の企業が一つとなることで、お互い別々に事業を行っているときの合計よりも大きな効果を生み出すことです。

垂直統合を図ると、異なるプロセスを担っていた会社間で技術やノウハウ、顧客情報などを共有することが可能です。

その結果、技術力や顧客ニーズに合う商品開発力の向上、販売網や顧客の共有による収益性の向上といったシナジー効果が得られます。

4:新しい戦略・施策を打ち出せる

垂直統合を図ると、自社の裁量を行使できる範囲が拡大します。裁量の拡大により新しい戦略や施策を打ち出すことが可能です。例えば自社で作った商品を小売店に販売してもらう場合、販売する顧客対象や販売促進および広告宣伝の方法は、基本的に小売店の方針に従わなくてはなりません。

一方で、小売分野に垂直統合を図れば販売する顧客の対象や販売場所、販促・広告宣伝などの決定は自由です。

そのため、うまくいけば競合他社との差別化や客単価の向上、固定客の獲得などにより大きく市場シェアや利益率を高めることも期待できます。

5:新しい収益源の獲得につながる可能性がある

垂直統合では、「製造業の会社が小売業に進出する」といった形で新しい事業を始めることになります。既存事業とは異なる市場に商品・サービスを販売するため、事業が軌道に乗れば新しい収益源となるでしょう。

複数の収益源(事業)を持つことで万が一主力事業の収益性が低下した場合でも、別の事業からの収益で会社全体の損失を軽減させることが期待できるのです。

垂直統合にはデメリットもあるので注意が必要

メリットばかりが注目される垂直統合ですが、「多額の初期費用を要する」「専門性が低下しやすい」といったデメリットもあります。良い面と悪い面を総合的に考慮した上で、垂直統合を図るかどうかを決定することが大切です。

多額の初期費用がかかる

多額の初期費用がかかる点は、垂直統合を図る上で無視できないデメリットです。例えばM&Aによって垂直統合を図る場合、買収資金やM&Aアドバイザーへの手数料などに多額のコストを要します。自力で新しく川上や川下に事業を広げる場合も、設備の購入や新規顧客の開拓などに多大な費用がかかってしまいます。

既存事業とは異なるビジネスを行う以上、多額の初期投資は避けて通れないため注意しましょう。

大規模な組織変革や方針の変更が必要となる

統合先となる新しい事業領域では、既存事業で培ってきたノウハウや技術、考え方が役に立たないケースが往々にして生じます。そのため、垂直統合によって新しい事業領域に進出する場合には、必要に応じて大規模な組織変革や経営方針の変更をしなくてはなりません。

経営資源が分散して専門性が低下するリスクがある

垂直統合では、経営資源が分散することで生じる専門性の低下もデメリットとなります。垂直統合に伴い、これまで主力事業に費やしてきた人員や資金などの経営資源の一部を、新しい事業に投入する必要性が生じるのです。経営資源が分散し、主力事業で培ってきた専門的な技術力やノウハウが薄まってしまうリスクもあります。

自社の強みである専門性が低下すると、長期的には競争優位性の喪失につながる可能性があります。垂直統合を図る際には、主力事業にも十分な経営資源を配分し専門性の低下を防ぐことが必要です。

意思決定の難易度が高くなる

一般的に垂直統合では、組織の拡大を伴います。事業に携わる従業員や利害関係者の増加はもちろん、考えるべき戦略や施策の範囲・数も増大するため、意思決定の難易度は大幅に高くなってしまいます。一つの意思決定を下すために考えるべきことが増えるため、意思決定のスピード低下や誤った意思決定による損失が生じやすくなります。

目的も進め方も異なる垂直統合と水平統合

 水平統合は、垂直統合と対極的な手法です。具体的には、サプライチェーン上において現在自社が担っているプロセスと同じ分野で事業の拡大を図る手法です。水平統合と垂直統合では、目的(メリット)や具体的な進め方が異なるため、違いを理解しておくことが大切です。

水平統合は「同業他社との統合」を意味する

簡単に定義すると、水平統合は「同一業種の他社同士が一つになること」です。例えば自動車の製造会社であれば、同じく自動車の製造を行う会社とM&Aやアライアンスを行うことが水平統合に当てはまります。

水平統合の目的は「スケールメリットの獲得」や「市場シェアの拡大」

水平統合の目的は、主に「スケールメリットの獲得」「市場シェアの拡大」の2つです。スケールメリットとは、事業規模の拡大によって得られるメリットの総称です。水平統合では、同種の事業を行う他社の取得・協働によって既存事業の規模が拡大します。

事業規模が拡大することで、以下に挙げたスケールメリットの獲得が期待できるでしょう。

・価格交渉力の向上による仕入および販売コストの削減
・重複する機能の削減によるコストカット
・設備投資の強化による収益性および効率性の向上

一方で市場シェアの拡大とは、ある市場の総売上高に占める自社商品・サービスの売上高の割合です。水平統合によって販売網や商品の取り扱い数が増加することで、市場シェアの拡大を期待できます。

目的に応じて垂直統合と水平統合を使い分けることが重要

これまで述べてきたように、垂直統合と水平統合では実施する目的(メリット)が大きく異なります。垂直統合と水平統合それぞれのメリットを確認し、目的に応じて最適な統合手段を選ぶことが重要です。

垂直統合と水平統合では得られる効果が異なる。目的に合わせて選択を!

垂直統合と水平統合は、「どの方向性に統合を図っていくか」という点に違いがあります。垂直統合では、サプライチェーン上における川上または川下、水平統合では同業他社が統合対象です。統合の方向性が異なるため、得られる効果(メリット)も変わってきます。

取引コストの削減や安定的な商品供給を実現したい場合は垂直統合、スケールメリットの獲得や市場シェアの獲得を実現したいときには水平統合を実施するとよいでしょう。