更新日:
公開日:
経営

敵対的買収の防衛策・クラウンジュエルとは?リスクや注意点を解説

  • Facebook
  • X
  • Line
敵対的買収の防衛策・クラウンジュエルとは?リスクや注意点を解説
クラウンジュエルとは敵対的買収への対抗措置の一つで、事業・子会社・重要財産を手放し自社の魅力を下げ、相手企業の買収意欲を削ぐ目的で実行されます。国内事例や実行する際の注意点、クラウンジュエル以外の買収防衛策について解説していきます。

敵対的買収の防衛策、クラウンジュエルとは?

敵対的買収の対象となった企業が事業や財産を手放すことで自社の価値を低下させて、買収者の意欲を減退させる対策を「クラウンジュエル」といいます。企業が敵対的買収の標的となった際に講じ得る対策の一つです。

「クラウン=王冠」を自社に、「ジュエル=宝石」を事業や財産に見立てて、王冠から宝石を取って魅力を落とした様子が名称の由来となっています。

敵対的買収とは、買収のターゲットとする企業の取締役会などから同意を得ずに、当該企業の株式を市場外で取得して買収を図ることです。事前通知を受けずにTOBの公表で初めて買収の事実を知る企業がほとんどです。

クラウンジュエルを行うための3つの条件

事業や財産を手放して自社の魅力を低減し、敵対的買収をもくろむ相手企業の買収意欲をそぎ落とすことがクランジュエルの目的です。

自社の価値を落とす方法には、「事業譲渡」「子会社の譲渡」「重要財産の売却」といった三つの方法が考えられます。企業にとってハードルの高い条件から順に見ていきましょう。

1.事業譲渡

企業の価値を下げる方法の一つとして、事業を手放すことが挙げられます。世間に誇れる魅力的な、かつ大きな収益を生み出している事業がありますならその事業運営への介入が買収の目的だと考えられるでしょう。

企業が事業を手放す際は、「事業譲渡」と呼ばれる手続きを踏む必要があります。事業譲渡とは、経営権を保有しつつ自社の一部または全部の事業を第三者に移譲することです。会社全体を売買する株式譲渡とは異なることに注意しましょう。

事業譲渡を成立させるためには、全議決権株式のうち過半数の出席が求められる特別決議で、出席株主の3分の2以上の賛成を得なければなりません。

特別決議は決議事項の中でも比較的重要な承認事項を決定するために開催されるものであるため、事業譲渡はクラウンジュエルを行う条件の中でも重い部類に属する条件だといえます。

2.子会社の譲渡

クラウンジュエルを行う条件としては、子会社の譲渡も効果的です。敵対的買収をもくろむ企業のライバル企業に収益性の高い子会社を譲渡すれば、相手にとって大きな損失になります。

子会社の譲渡には株式譲渡を用いるのが一般的です。親会社で臨時取締役会を開催し、子会社譲渡について臨時株主総会の招集決議が必要となります。事業譲渡と同様、特別決議で3分の2以上の賛成を得なければなりません。

かつて子会社譲渡は取締役会で過半数の賛成が得られれば成立していました。しかし平成26年の法改正以降、売却後に保有の子会社株式の議決権割合が過半数を下回る場合や、子会社株式の帳簿価額が親会社の総資産の5分の1を超える場合は、特別決議が必要となっています。

3.重要財産の売却

企業の魅力を低減させる方法には、重要財産の売却も含まれます。会社法では、重要な財産の処分について、取締役会の決議を必要とするとされています。株主の同意を得る必要がないという点で、クラウンジュエルを行う条件の中では軽い条件だといえます。

ただし、何をもって重要であるかということについては、敵対的買収に関わる企業の認識によって差があります。企業の総資産など種々の情報に照らし、重要かどうかの検討が必要です。

クラウンジュエルを行う際のリスクや注意点

会社法により、取締役には、企業に損害を与えるような職務執行をしないよう、善管注意義務や忠実義務が課されています。

クラウンジュエルを発動させるために実行する事業譲渡・子会社譲渡・重要な財産の処分は、企業にとってマイナスになりかねない行為であるため、善管注意義務や忠実義務に反する可能性があります。

また、株主や債権者などのステークホルダーにとっても、権利を害されることになりかねません。株主による代表訴訟を起こされるリスクもあります。

仮にクラウンジュエルの実行を検討する場合は、少なくとも株主からの同意を得る必要があります。敵対的買収により自社が危機に瀕していることや、事業譲渡などを実行することで長期的には株主に利益をもたらすことなどを、きちんと説明しなければなりません。

それでも、株主総会の承認を得るなどの担保を獲得するには、会社法が求めている以上の賛成数が必要になると考えられます。

以上のようなことから、クラウンジュエルを敵対的買収の防衛策として用いることは、現実的ではないとされています。

敵対的買収に対してどんな防衛策をとるべきか?

敵対的買収への予防策としては、相手企業の買収意欲を低下させる方法や、友好的な第三者に頼る方法など、さまざまな方策が考えられます。クラウンジュエル以外に効果的な買収防衛策の中から、代表的なものを以下に解説します。

1.ライツプラン(ポイズンピル)

あらかじめ設定した条件(ポイズンピル)を満たした場合に、時価に比べ安価で新株を取得できる権利(新株予約権)を、既存の株主に付与しておく方法がライツプランです。

買収企業が市場外で株式を取得し、株式の保有比率が増えてきた際に、新株が発行されて買収企業の株式保有比率を下げることが可能です。

新株予約権を発行すること自体に、敵対的買収の予防効果があります。ただし、実際に新株が発行されると株式の発行総数も増えるため、株価が大幅に下落し株主の利益に影響を与えるリスクもはらんでいます。

新株予約権の発行条件であるポイズンピルは、敵対的買収を引き金に発動することから、「トリガー条項」とも呼ばれています。

2.黄金株

株主総会における決議への拒否権を有している株式が「黄金株」です。種類株式の一種であり、正式名称を「拒否権付種類株式」といいます。

黄金株が発行されている会社では、株主総会とは別に種類株主総会を開催しなければならず、そこで黄金株の所有株主が決議を拒否すれば、決議は不成立となります。黄金株の株主は、株主総会の決議を覆せる強力な権限を所有することになります。

黄金株は経営陣の所有が認められていないため、買収予防策として友好的企業に渡されるのが一般的です。ただし、1株で強力な権限を発動できる黄金株は、株主平等の原則に反するという認識が強いことから、上場企業で発行されることはほとんどありません。

3.ゴールデンパラシュート

役員の退職金を高額に設定することで買収意欲を低下させる方法が「ゴールデンパラシュート」です。一般的には、通常の3倍程度に設定されます。

敵対的買収を成立させた企業は、自社の思う通りに企業を動かせるよう、買収先企業の役員を退職させて自社から役員を就任させることになります。

しかし、買収先の役員の退職金が高額に設定されていれば買収後の費用がかさむことになるため、敵対的買収の予防策として有効です。

なお、従業員の退職金や一時金を高額に設定し、買収への予防策とする方法として、「ティンパラシュート」と呼ばれるものもあります。

4.プット・オプション

株主や債権者に対して、一定の事由が生じた際に株式の買い取りや弁済請求を行える「プット・オプション」を付与することで、買収に対する予防策になり得ます。

具体的には、株主には全ての株式の買い取りができる権利を、債権者には一括弁済請求できる権利を、買収前に与えておくことです。

買収後の企業は、買収先の企業からの請求に対して高額な費用が発生するため、買収の抑止力として期待できます。

5.ホワイトナイト

企業が買収されそうになった際に有効的な第三者に企業を買収または合併してもらうことを「ホワイトナイト」といいます。名称は、白馬に乗った騎士が企業を救うというイメージに由来しています。

買収の対象となった企業にとっては苦肉の策ともいえるが、より自社に適した企業の傘下に入れるというメリットがあります。2006年にドン・キホーテから敵対的TOBを受けたオリジン東秀が、イオンにホワイトナイトを引き受けてもらった例があります。

6.資産ロックアップ

株式を売却できないように制限をかけることを「ロックアップ」といいます。「資産ロックアップ」とは、ある資産に対し、買収された後に売却できないよう、定款で定めることを意味します。

企業の資産を目的とした買収のケースでは、資産ロックアップで買収後に取得した資産を売却できなければ、買収意欲を低下させられるでしょう。

7.パックマンディフェンス

会社法では、買収を仕掛けてきた企業Aが発行する株式の4分の1を、買収されようとしている企業Bが取得した場合、AはBの株主総会における議決権を失うとされています。

このことを利用し、敵対的買収をもくろむ会社に逆襲を仕掛けることを「パックマンディフェンス」と呼んでいます。

買収を未然に防げる上、全株式を取得する必要もないものの、莫大な資金を必要とすることがデメリットです。防衛のみを目的とするため、経営上のメリットもほとんどありません。

敵対的買収への対抗策を知っておこう

クラウンジュエルは敵対的買収への対抗策の一つとして、相手企業の買収意欲を下げる効果を期待できるものの、自社の事業や財産を手放さなければならず、現実的な策ではないとされています。

ただし、自社に対して敵対的買収が発生することは想定しておくべきであり、さまざまな対抗策を理解することで、実際に対応する場合に役立つでしょう。