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中小企業の退職金の平均相場は?従業員の退職金の計算方法を解説
自社の退職金規程を確認しましょう
退職金とは、従業員が会社を退職するときに支払う賃金のことです。定年退職だけでなく、転職や家庭事情などで退社する場合でも、規定により退職金を払わなければならない場合があります。
すべての従業員に退職金を支払わなければならないわけではありません。企業は、社員に対する給与支払いや健康保険・労働保険といった社会保険への加入は義務ですが、退職金の支払いについては義務ではありません。
ただし、企業が退職金制度を設けて、一度でも支払った実績がある場合は、それ以降は義務となります。まだ退職金制度を導入していないならば、まずは導入を考えてみましょう。
厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、退職金制度のある会社の割合は、2018年では80.5%でした。1000人以上の企業では92.3%と高いですが、30人から99人の会社では77.6%であり、中小企業ではまだ導入率が低いのが実情です。
退職金制度があったとしても、多くの場合は正社員が対象となっているはずです。派遣、パートタイム、契約社員、嘱託社員などの雇用形態は対象外であることが多いです。働き方改革で今後は様々な雇用形態の社員が増える可能性があります。自社の退職金規程を改めて確認しておきましょう。
退職金には「一時金」の他に「企業年金」もある
退職金とは一般的に「退職一時金」を指します。企業には従業員の退職時に現金で「退職一時金」をすぐに支払う義務があります。また、退職金を「企業年金制度」で運用する制度もあります。「退職一時金」と「企業年金制度」の両方を併用することも可能です。
その場合、従業員は「企業年金」部分については、一時金で受け取るか、将来年金として一定期間一定金額を受け取るかを選べます。また「退職一時金」も、規定によっては「確定給付企業年金」の制度へ移行することも可能です。
「就労条件総合調査」によると、「退職一時金制度」のみの会社が2018年時点で73.3%と主流で、「企業年金制度」のみは8.6%、両制度を併用している会社は18.1%でした。やはり、自社の退職金規程を細かく確認しておくべきでしょう。
中小企業の退職金はどれくらい?勤続年数によって異なる?
退職金は会社の規模や規定にもよりますが、基本的には勤続年数や給与額、会社都合か自主都合などの退職理由などによって計算されます。「在職時の会社への貢献度」と言い換えることもできるでしょう。
東京都は毎年、中小企業における賃金制度や退職金制度を整備・充実することを目的に、中小企業の労使が活用する資料として、都内中小企業(従業員数10~299人)3,500社における賃金・退職金の実態を調査しています。令和2年に東京都が発表した『東京都産業労働局 中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)』によると、2020年7月19年の中小企業におけるモデル退職金は、高校卒で定年まで勤め上げた場合の退職金支給額の平均で1,031万4000円、大学卒では1,118万89000円でした。中途入社や定年前に退職した場合は、勤続年数によるモデル退職金(資料1)を参照してください。
(資料1)
大企業と中小企業ではどれくらい退職金が違うのか?
大企業の退職金は、中小企業とどれくらい違うのでしょうか。厚生労働省が令和元年に大企業(資本金5億円以上かつ労働者1,000人以上の企業)を対象に実施した『厚生労働省 賃金事情等総合調査(令和元年)』によると、高卒で大企業に務めた社員が定年まで勤め上げた場合の退職金は1,858万9000円です。大卒で大企業に務めた社員が定年まで勤め上げた場合の退職金は2,249万です。
上述した、東京都産業労働局が都内の中小企業(従業員数は50人以下から300人以下まで、資本金は5,000万円以下から3億円以下までの範囲)を対象に実施した『東京都産業労働局 中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)』では、高卒で中小企業に務めた社員が定年まで勤め上げた場合のモデル退職金は1,031万4000円。大卒で大企業に務めた社員が定年まで勤め上げた場合のモデル退職金は1,118万9000円のため、大企業と中小企業の退職金を比べると、中小企業のほうが約1,000万円少ないことになります。また、退職金の金額は学歴によっても大きな差があることがわかります。
高卒でも大企業の満勤勤続であれば、「老後資金2,000万円問題」を退職金で解消できる可能性がありますが、中小企業勤務の場合はそうはいかないでしょう。中小企業の従業員は、国の制度などを利用し「自分退職金」や「自分年金」を積み立て、早めに老後の資金を準備していく必要があるでしょう。
退職金の計算方法とは?
会社の「退職金規定」には多くの場合退職金の算定方法が記載されています。退職金には「基本給連動型」が多いですが、それ以外にもいくつかの方式があります。
定額制
基本給などに関係なく、勤続年数のみに連動して支給金額を決定する方式です。通常は勤続年数が長いほど受け取れる金額が多くなります。
基本給連動型
退職時の基本給、勤続年数、退職理由を加味して算出する方式です。勤務期間の評価や業績は基本給に反映されているはずなので、基本給が高い人はそれに応じて退職金も増えることになります。
退職金 = (退職時の基本給) × 支給率(勤続年数により変動)×(退職事由係数)
勤続年数10年、基本給30万円で、支給率が8.0、自己都合退職の係数が0.8の場合、以下が退職金の額になります。
30万円 × 8.0× 0.8= 192万円
別テーブル制
ベースとなる基礎金額が、基本給ではなく役職や等級に応じて設定される方式です。その基礎金額に、勤続年数、退職理由を加味して、以下の計算式で算出します。
退職金 = (基礎金額(役職・等級などにより変動) × 支給率(勤続年数により変動) × 退職事由係数
ポイント制
企業が従業員に付与したポイントに応じて金額が決定します。勤続年数や、貢献度を評価するポイントなどの合計である「退職金ポイント」を用いて、以下の計算式で算出します。
退職金 = (退職金ポイント) × (ポイント単価) × (退職事由係数)
損をしないために知っておきたい退職金にかかる税金
給与に所得税がかかるのと同様に、退職金にも所得税がかかります。退職金は、その性質上税金については優遇されています。
退職金には、退職金所得控除があります。勤続年数が20年以下の場合は1年あたり40万円(80万円に満たない場合は80万円)、勤続年数が20年以上の場合は20年分の800万円に20年を超えた勤続年に対し1年当たり70万円が控除されます。さらに、課税対象となるのは控除後の金額の2分の1です。
(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1/2 = 退職所得の金額
計算例1:勤続35年、退職金1,800万円の場合
控除額 800万円+(35-20)×70万円=1,850万円
退職金 1,800万円 - 控除額(1,850万円)=-50万円
退職金が控除額の範囲内なので、所得税はかかりません。
計算例2:勤続30年、退職金3,000万円の場合
控除額 800万円+(30-20)×70万円=1,500万円
(退職金3,000万円-控除額1,500万円)×1/2=750万円
よって、750万円に対して所得税がかかります。
退職金にかかる税金で損をしないために、受給者は「退職所得の受給に関する申告書」を提出する必要があります。提出しないと、一律約20%が源泉徴収されてしまいます。提出していない場合は、確定申告をすることで納め過ぎた分は還付されます。
iDeCo、個人年金保険を活用し「自分退職金」「自分年金」を
中小企業の退職金は、大企業に比べて少ないため、「老後資金2,000万円問題」を見据えると、中小企業の雇用者はiDeCo(個人型確定拠出年金)や個人年金保険などの税制優遇を最大限に活用しながら、「自分退職金」「自分年金」を積み立てる必要があるでしょう。
iDeCoは、毎月一定の掛金を拠出して、自分自身の指示で運用し、その資産を60歳以降に年金または一時金で受け取る制度です。月額5,000円から始められ、会社員の掛金の上限は、企業年金制度の有無などによって異なりますが、企業年金がない場合は2万3,000円です。
iDeCoは、掛金が全額所得控除になることが最大のメリットです。しかも、運用期間中の利益や利息は非課税です。将来年金として受け取るときも「退職所得控除」「公的年金等控除」の対象となり、税金が軽減されます。
たとえば、掛金が月額5,000円(年間6万円)でも、所得税・住民税ともに6万円の所得控除を受けられるので節税効果は大きいといえます。月の上限が2万3000円の会社員の場合は、年間所得から27万6000円が控除されます。有利な優遇税制なので、最大限活用をおすすめします。
個人年金保険は、契約時に定めた保険料を毎月支払い、一定の年齢になると年金として受け取れるという貯蓄型の保険です。積立金額、期間、一括で受け取るか年金として受け取るのかなど選べるので、ライフプランに合わせた設計がしやすいでしょう。個人年金保険も、年間最大4万円までの支払保険料を控除できます。iDeCoのように運用指示をする必要がないので、初心者でも加入しやすいでしょう。ただし、基本的には固定利率なので低金利時にはあまり魅力がないことと、早期解約をした場合に、支払った保険料の合計よりも解約返戻金のほうが少なくなる(元本割れする)ことがあるので注意しましょう。
中小企業の退職金の平均相場を知りライフスタイルに合わせた資産形成を
経営者にとって、企業の発展、存続、優秀な社員を引き留めるためにも、自社の退職金制度の整備は欠かせません。経営者は自社の退職金の水準を意識し、その上で従業員に対し「自分退職金」「自分年金」などをサポートしていきましょう。中小企業の従業員には、ライフプランや退職までの年数などを考慮した長期の資産形成プランが必要です。