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従業員の離職の要因にも!キャリアパスを企業としてどう示すべきか
キャリアパスとは従業員に目標に対しての道筋を示すこと
「キャリアパス(CareerPath)」という言葉を解説すると「キャリア」は「職歴」を意味し「パス」は「道」となります。つまり、キャリアパスとは仕事において目標を定め、そこに向かって進んでいくための道筋のことを表します。
「キャリアパス」と「キャリアプラン」は明確に異なる
キャリアに関する用語には「キャリアプラン」もありますが、「キャリアパス」と「キャリアプラン」は明確に異なるものなので、誤解しないようにしましょう。
キャリアパスは企業が従業員に対して明示するものですが、キャリアプランは従業員自身が考えるものです。また、キャリアプランは広義的な意味で使われる場合、転職や独立などによるキャリアアップなどの計画も含まれます。
企業がキャリアパスを導入するメリット
キャリアパスを明示することは従業員だけではなく、企業にとってもメリットは大きいといえます。ここでは代表的な3つのメリットを解説します。
モチベーションの向上につながる
キャリアパスが明示されると、将来目指すべき姿やそれに到達するまでの期間を従業員自身で定め、自らの能力を早期に高めようという自己啓発意識の醸成につながります。つまり、モチベーションの向上が期待できます。
離職率の低下と採用コストの抑制につながる
上記のとおり、従業員が現在働く企業で昇進に向けて努力することは業績の向上に寄与することはもちろん、離職率の低下にもつながります。結果的に企業の採用コストが抑制されるという効果も期待できます。
優秀な人材が集まる
企業の採用活動でも、キャリアパスを活用できます求職者がキャリアパスを確認できるようにしておけば、入社後をイメージしやすくなるため、応募増につながります。応募が増えると、それだけ優秀な人材を獲得しやすくなるはずです。
キャリアパスには「単線型」と「複線型」がある
キャリアパスは、「単線型キャリアパス」と「複線型キャリアパス」(マルチキャリアパス)に大別されます。
単線型キャリアパス
「単線型キャリアパス」は、例えば「一般職→課長→部長→エリア長」のようにキャリアの経路を1つだけ提示するものです。事業規模が小さい企業や事業部門が1つしかない企業では、単線型キャリアパスになりやすいです。
複線型キャリアパス
一方で「複線型キャリアパス」は、上級職への昇進のみをキャリアパスの経路とせず、専門職として働くルートや海外赴任のルートなどを含め、さまざまなキャリアパスを従業員に提示するものです。
従業員の中には、管理職ではなく専門職を目指す人材もいれば、配属された部署で能力を発揮できずにいる人材もいます。このようなことを想定し、従業員にさまざまなキャリアパスを明示すれば、多様な人材が能力を発揮しやすくなります。
さまざまな選択肢から進むべきキャリアを選べる
キャリアパスには「単線型キャリアパス」と「複線型キャリアパス」がありますが、事業規模が小さい会社においても、できれば複数のキャリアパスを設けておきたいものです。選択肢が多くなるほど、多様な働き方のニーズを受け止めやすいためです。
ここからは、さまざまな企業のキャリアパスの事例を紹介します。
管理職を目指す
ある介護系企業では、まだ多くの知識や技術を有していない介護職員が、マネジメント職や施設長などの管理職を目指すためのキャリアパスが明示されています。キャリアパスの段階は5段階で、詳細は以下のとおりです。
<キャリアパス>
1.まだ多くの知識・技術を有していない介護職員
2.ある程度の知識・技能を身に付けた介護職員
3.実務経験を経て「介護福祉士」の試験に合格した介護福祉士
4.一定程度のキャリアを重ねた介護福祉士
5.マネジメント職や施設長などの管理職
このキャリアパスにおいては、「2」から「3」へのステップアップに向けた養成カリキュラム、「3」から「4」へのステップアップに向けた、チームリーダーとして必要な知識を習得するための研修プログラムなどについても説明されています。
ちなみに、このキャリアパスの「5」では、介護現場でのスペシャリストを目指すルートも用意されており、最終的に「複線型キャリアパス」となっています。
専門職を目指す
前述の介護系企業の場合は、キャリアパスの最終段階で管理職または専門職を選ぶ形式でしたが、さらに早い段階から専門職を目指すことを前提にしたキャリアパスを明示している企業もあります。
あるIT企業では、IT専門職を目指す人も総合職を目指す人も経験する「共通キャリアパス」を明示した上で、その後IT専門職を目指す人向けのキャリアパスも用意しています。
<共通キャリアパス>
1.初級プログラマー
2.準中級プログラマー
3.中級プログラマー
<IT専門職キャリアパス>
4.準上級プログラマー
5.上級プログラマー
6.初級SE
7.準上級SE
(※SEとは「システムエンジニア」のこと)
この企業でも各段階へのステップアップに向け、取り組むべき事項が明文化されています。例えば「3」から「4」に向けては、「構造化プログラミングや可読性の高いコード記述などを習得する」とあります。
さらにIT専門職キャリアパスの「7」の後は、選択キャリアパスとして「ITコンサルタント」を目指す道なども明示されています。
転勤せずに昇進を目指す
ある通信系企業では、ショップスタッフからエリア長への昇進を目指すキャリアパスだけでなく、勤務エリアに関するキャリアパスも明示されています。
<昇進に関するキャリアパス>
1.ショップスタッフ
2.リーダー
3.チーフ
4.副店長
5.店長
6.エリア長
<勤務エリアに関するキャリアパス>
・地域限定勤務(転勤なし)
・支店管内勤務(支店管内で転勤あり)
・全国勤務(全国で転勤あり)
勤務エリアに関するキャリアパスが複数明示されているのは、従業員によっては家庭の事情で転勤が難しい人や地元で働き続けたい人、もしくは全国を巡りながら活躍することを希望する人がいることを想定しているためです。
女性の出産などを想定したキャリアを明示する
女性従業員の中には、出産や育児による将来の休職について不安を覚える人もいます。そのような人に向けて、出産・育児休職を取得した場合のキャリアパスを明示し、安心して長く働いてもらえるように工夫している企業もあります。
あるヘルスケアメーカーのキャリアパスはユニークです。出産の予定がある場合、入社時期を遅らせることができる制度を用意しており、入社の段階からキャリアに関する不安を取り除こうと努めています。
出産や育児を経て入社もしくは復帰した後は、フレックスタイム制で働くことを選べるキャリアパスも用意されており、育児と仕事を両立できるよう配慮しています。
海外赴任を目指すキャリアパス
企業によっては海外に事業所を有しており、海外赴任のチャンスを与えられるところもあります。このような企業においては、海外赴任までのキャリアパスが用意されていることが多いです。
ある経営コンサルティング企業では、スタッフ級、リーダー級、管理職級の人材それぞれに対して、選抜・研修を含めた以下のような海外赴任へのキャリアパスを提示しています。
<スタッフ級人材向けのキャリアパス>
1.選抜(潜在的能力や意欲を重視)
2.人材基礎トレーニングやスキルアップ研修
3.海外派遣前研修初級編
4.海外赴任(現地スタッフクラスとして駐在)
5.赴任中ワークショップ
6.帰任
7.帰任後ワークショップ
<リーダー級人材向けのキャリアパス>
1.選抜(経営センスや適応力などを重視)
2.リーダーシップ・マネジメント研修
3.海外派遣前研修中級編
4.海外赴任(現地主任・課長クラスとして駐在)
5.赴任中ワークショップ
6.帰任
7.帰任後ワークショップ
<管理職級人材向けのキャリアパス>
1.選抜(経営能力や海外実績を重視)
2.リーダーシップ・マネジメント研修
3.海外派遣前研修上級編
4.海外赴任(現地部長・社長補佐クラスとして駐在)
5.赴任中ワークショップ
6.帰任
7.帰任後ワークショップ
キャリアパスの策定は事業の成否を左右する
ここまで、キャリアパスの基礎知識のほか、具体例を5つ挙げて解説しました。
いずれも、ステップアップのための「研修」や「自己啓発」の機会がセットで設けられています。企業側がステップアップに向けたスキルアップを支援することで、従業員は自ら選んだキャリアパスを実現しやすくなります。
キャリアパスに関して経営者が注意すべきは、多様性を意識することです。国が進めている「働き方改革」は、「働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で『選択』できるようにするための改革」と定義されています。
働き方に対する考え方が多様化する中、さまざまなキャリアパスが用意されている企業は求職者から見て魅力的であり、優秀な人材を獲得しやすくなります。それは、業績の向上にもつながるはずです。
つまり、適切なキャリアパスの策定は事業の成否を左右するものであり、経営者として軽視してはならないといえるでしょう。