時代の中で淘汰された
〝ナンバーワン〞の集積

「ビジネス界では地位が高くなるほど、クラシック音楽の愛好家が増える傾向があります。クラシックの教養は特に海外の人との会話を盛りあげますから、それに対応しているうちに、クラシックが好きになるようです」。クラシックソムリエの田中泰氏はまず、クラシック音楽を、その歴史から紐解く。
「クラシック音楽は、400年ほど前から現在にいたるまでの間に生まれた楽曲です。当初は教会音楽や王侯貴族の食事のBGMのようなものでしたが、音楽として独立し、発展し、一般に広がりました。そして時代の流れの中で膨大な楽曲が淘汰され、優れたものだけが残った。文学におけるシェイクスピア作品のような完成度の高い名作だけを、私たちは今、楽しんでいるわけです。だから、いくら聴いても飽きないんです」。
バロック、古典派、ロマン派、印象主義……。時代ごとに変遷を遂げてもきた。例えば、バッハに代表されるバロック音楽は、まだ感情表現がさほどされていない。 「やがて時代が進み、ショパンやリストなどのロマン派になると、曲の中に感情が入ってきました。そして、あらゆる音楽が編み出されたのちの現代。作曲家には新しさが求められますから、人間の感情とは関係のない、実験的な音楽が主流になっています」。
ポップスやロックのような音楽との決定的な違いもある。「クラシックは〝再現芸術〞なんです。同じ楽譜ですから誰が演奏しても旋律は同じ。ですが、演奏者によって表現や強弱の付け方が異なる。例えば私の家には、ベートーヴェンの『交響曲第5番(運命)』だけで30種のCDがあります。指揮者や演奏者が違うのですが、クラシック音楽の醍醐味はそうした中から自分が理想とする〝ナンバーワン〞を見つけること。対してロックやポップスは〝オンリーワン〞の世界です。サザンオールスターズの曲はやはり彼らが歌わないとダメですよね(笑)。そんな風に、クラシックとポップスでは音楽の質が違っています」。
また、クラシック音楽はバリエーションが豊富。例えば、居酒屋から高級レストランまで、シーンごとに合う曲がある。おすすめは、〝好きな一曲〞と出合うことだ。
「『この曲をあの演奏家が弾けばどうなるか』と、ひとつの好きな曲を軸に聴き比べることで、興味の対象が広がり、演奏の違いにも敏感になります。あとはCDのライナーノーツなどを読んで、作曲家や曲の背景の物語を知ることも味わいを深めます。クラシック音楽には、それだけ深く掘り下げていく魅力があると思います」。

「クラシック音楽は、400年ほど前から現在にいたるまでの間に生まれた楽曲です。当初は教会音楽や王侯貴族の食事のBGMのようなものでしたが、音楽として独立し、発展し、一般に広がりました。そして時代の流れの中で膨大な楽曲が淘汰され、優れたものだけが残った。文学におけるシェイクスピア作品のような完成度の高い名作だけを、私たちは今、楽しんでいるわけです。だから、いくら聴いても飽きないんです」。
バロック、古典派、ロマン派、印象主義……。時代ごとに変遷を遂げてもきた。例えば、バッハに代表されるバロック音楽は、まだ感情表現がさほどされていない。 「やがて時代が進み、ショパンやリストなどのロマン派になると、曲の中に感情が入ってきました。そして、あらゆる音楽が編み出されたのちの現代。作曲家には新しさが求められますから、人間の感情とは関係のない、実験的な音楽が主流になっています」。
ポップスやロックのような音楽との決定的な違いもある。「クラシックは〝再現芸術〞なんです。同じ楽譜ですから誰が演奏しても旋律は同じ。ですが、演奏者によって表現や強弱の付け方が異なる。例えば私の家には、ベートーヴェンの『交響曲第5番(運命)』だけで30種のCDがあります。指揮者や演奏者が違うのですが、クラシック音楽の醍醐味はそうした中から自分が理想とする〝ナンバーワン〞を見つけること。対してロックやポップスは〝オンリーワン〞の世界です。サザンオールスターズの曲はやはり彼らが歌わないとダメですよね(笑)。そんな風に、クラシックとポップスでは音楽の質が違っています」。
また、クラシック音楽はバリエーションが豊富。例えば、居酒屋から高級レストランまで、シーンごとに合う曲がある。おすすめは、〝好きな一曲〞と出合うことだ。
「『この曲をあの演奏家が弾けばどうなるか』と、ひとつの好きな曲を軸に聴き比べることで、興味の対象が広がり、演奏の違いにも敏感になります。あとはCDのライナーノーツなどを読んで、作曲家や曲の背景の物語を知ることも味わいを深めます。クラシック音楽には、それだけ深く掘り下げていく魅力があると思います」。
「シャンパンと赤ワインでは飲むためのグラスが違うように、コンサートホールはその形、造りで音の聞こえ方がまったく違います。ですので、ホールサイズに見合ったスケールの演奏を聴くのがベスト。一方で『サントリーホールは私のオーディオルーム』とばかりに、何を聴くにもそのホールでと決めるのもおもしろい。たまに別のホールで聴くと、音の印象の違いに驚くと思います」と田中氏。
その〝音の印象の違い〞を決めるのが反射音のバランスだ。数々の名ホールを手がける音響のプロ、株式会社永田音響設計代表、小口恵司氏は語る。「ステージ上の楽器からの音が直接届いた直後の0.1秒間に、どんな反射音がどれくらい続くかがそのホールの音の個性になります。また、反射音のあとに続く響きが、聞こえなくなるまでの時間を『残響時間』といい、サントリーホールのようにオーケストラの演奏に向いた大きなホールでは2秒。その最初の0.1秒の反射音をどう設計するかで、ホールの音のすべてが決まります」。
直接音から0.1秒の間にどの方向からいくつ音がくるかで響きの印象が決定付けられるという。「ホールの天井高や形、比率が最も重要。あとはステージの床材、壁、天井、座席といった要素すべてで、バランスのいい響きを確保した音響設計を行っています」(小口氏)。
 
「楽器の種類が圧倒的に多いことも、クラシック音楽の特徴です。特にオーケストラは、各楽器がソロで演奏するパートもありますが、大人数が奏でる曲全体のハーモニーや音の厚み、バリエーションの豊かさはクラシックならではです」。オーケストラの音を楽しむには、編成や配置を知るのも教養のひとつだ。多くの場合、指揮者が全体を統制して演奏が進められる。ヴァイオリンなどの弦楽器、フルートなどの管楽器(木管および金管)、パーカッションなどの打楽器から成り、そこにピアノが加わるときも。楽曲により人数の増減がありつつ、豊かなハーモニーが奏でられる。
「オーケストラの音の響きも、聴く人の好みや時代ごとの表現のトレンドはありますが、やはり演奏者の力量は大きいですね。例えば、ドイツのベルリンに本拠地を置くベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、まさに一流ソリストの集団。プロバスケットボールでいうところの〝NBAスーパースター軍団〞並みの強者ぞろいで、その音のすばらしさは思わずのけぞるほどです」(田中氏)。
「クラシックの楽器には、五感に響くアコースティックな良さがあります。ヴァイオリンなら、木板のボディにその昔は羊の腸でつくられた弦が張られてました。弓には馬の尻尾が今でも使われる。そうした自然のものが織りなすのが、クラシックの響きです」。
クラシックの楽器の中でひと際有名なのが、ストラディヴァリウス。17世紀後半から18世紀前半に弦楽器製作者アントニオ・ストラディヴァリが製作したヴァイオリンだ。 「美しい黄金比の名器で、美術工芸品的な価値も高く、高額で売買されることもあります。
〝ダイヤモンドトーンン〞といわれる高音の響きや遠くに音を飛ばす力がありますが、誰でも弾きこなせるわけじゃない。やはり演奏家の技量と楽器との相性が、音色を左右します」(田中氏)。
「歌は人の心に訴える力が特に強いですね。私は何十年も年間約200件のコンサートに行き続けていますが、唯一、聴衆の半分以上が泣いていたのがオペラ歌手、ジェシー・ノーマンのコンサートでした」。 ソプラノやテノールといった「声域」と、ドラマティコ(劇的な)、リリコ(叙情的な)といった「声質」によって歌手の声は大きく分類されるが、それによって決まるのがオペラの役柄。例えば、かつて故・ルチアーノ・パヴァロッティ、プラシド・ドミンゴと三大テノールという伝説をつくり、今なお来日公演が人気を博しているベテラン歌手ホセ・カレーラスは、テノールの中でも叙情的な表現と強いピッチを特徴とするリリコ・スピントの声をもつ。
「甘いマスクの小さな体で精一杯歌いあげる姿が、彼の最大の魅力ですね。『トスカ』のアリア〈星は光りぬ〉を歌うカヴァラドッシ役のように、泣きながら自分の思いを歌う切なさ、男の弱さの表現が、とても似合います。そんなふうにオペラは、配役がひとつの見どころです」(田中氏)。

三大テノールのひとりにして、今なお現役で歌い続ける伝説的歌手ホセ・カレーラス。
永遠の美声ともいわれるその歌声は、オペラを語るうえで、一度は聴いておきたい。
そこで田中泰氏に、彼の歌声を堪能できるおすすめのCDとDVDをセレクトしていただいた。

田中泰
音楽ジャーナリスト/プロデューサー、一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、株式会社スプートニク代表取締役プロデューサー。1957年、神奈川県生まれ。1988年、ぴあ株式会社に入社し、クラシック音楽を担当。2008年、株式会社スプートニクを設立し独立。執筆活動に加え、「モーニング・クラシック」(J-WAVE)や「JAL機内クラシックチャンネル」などでの構成立案など、クラシック音楽の普及に尽力。